【第1回 VTuberサミット:前編】VTuber事業は『レディプレ』的仮想世界へダイブする準備

全世界的なヒットを飛ばしたスティーヴン・スピルバーグ監督の最新作『レディ・プレイヤー1』(4月20日公開)。2045年を舞台にした同作では、仮想世界「オアシス」で繰り広げられるスペクタクルな冒険が観客を魅了した。

 そんな中、YouTubeを中心に活躍する仮想キャラクター「バーチャルYouTuber」(以下、VTuber)が、巷で注目されつつある。将来誕生するであろう巨大な仮想世界に思いを馳せつつ、VTuber事情に精通する識者たちが現状や展望を話し合う「VTuberサミット」の第1回目がスタートした。

■「第1回 VTuberサミット」サミット参加者一覧

【亀井智英】
Tokyo Otaku Mode Inc.の創業メンバーの一人( https://twitter.com/tomohkamei )。現在は同社代表取締役会長。経済産業省クールジャパン官民連携アドバイザリーボードの現メンバー。本サミットの発起人。

【高田順司氏】
大手YouTuber向けプロダクションで役員をつとめ、現在は独立。株式会社hayaoki 代表取締役。 https://twitter.com/uchu_jin
事業開発やYouTubeなどの動画関連のアドバイザーなどを行う。

【大坂武史氏】
Activ8株式会社の代表取締役。人気VTuberの「キズナアイ」も参加する バーチャルタレント支援ネットワーク「upd8」を運営。

【AO氏】
人気VTuber「輝夜月」のボス。

【谷郷元昭氏】
VR/AR技術を活用したキャラクターライブ配信やVTuberを展開するカバー株式会社の代表取締役。人気VTuberの「ときのそら」や「ロボ子さん」などを手がける。

【宗像秀明氏】
株式会社アップランドの代表取締役。広告代理事業やアプリ開発、VRプラットフォーム「VR LIVE」などを展開。人気VTuberの「電脳少女シロ」や「ばあちゃる」なども手がける。

【塚本大地氏】
株式会社DUOのCEO。人気VTuber「ミライアカリ」の展開やVTuber事務所「ENTUM」の運営を中心とした事業を手がける。

■VTuberは急増中 4千人以上のキャラクターが存在

亀井智英(以下、亀):皆さん、お忙しい中、ありがとうございます。今回は「VTuberサミット」と銘打ちまして、VTuberの現状や課題を共有し合って、業界全体が良くしたり、さらに大きくしていくきっかけになったりすればと思い、私からお声がけして皆さんにお集まりいただきました。会の進行役は、高田さんに今回お願いしました。

高田順司氏(以下、高):まぁ、でも「VTuberサミット」って最初からなかなか振りかぶったよね(笑)。集まっていただいた方の中には、コンテンツIPを作ろうというスタンスの方もいれば、プラットフォームを含めて一緒にやりたいという方もいらっしゃると思います。ぜひ皆様の現状や課題を聞かせてください。

谷郷元昭氏(以下、谷):分かりました。

高:まずは……一つ聞きたいのですが、皆さんはニコニコ超会議にどんな風に関わっていましたか? 色んなIPコンテンツも出ていたと思いますが、まずはキズナアイはどんな感じでしたか?

大坂武史氏(以下、大):キズナアイが音楽ステージにて小林幸子さんの後にオオトリを務めました。時代の変化を感じました。


(チャンネル登録者数200万人以上の人気VTuber「キズナアイ」)

宗像秀明氏(以下、宗):ウチのVTuberもニコ超に出演しました。皆さんスゴく楽しんでいたようで、業界の熱量というのを感じ取れたかなと思います。

塚本大地氏(以下、塚):『サンデージャポン』(TBS系)に超バーチャルYouTu”BAR”の様子なんかが取り上げられましたね。報道を通じて一般層にもウケ始めると、あのコミュニケーション体験を店舗持ってやる可能性も高まるかもしれません。人とキャラが別の形でコミュニケーションすることが一般に浸透する可能性を秘めていると感じました。

高:やっぱりニコ超の文化はピックアップしやすいのかなと思います。で、 VTuberに関して言えば、ここ2カ月で数が4千人 になりました、みたいなデータがあったりとか、思った以上のスピードで参入者が増えている印象です。
各社さんが色んな思いを持ってやっていらっしゃいますが、皆さんは、将来的にどういうことを実現したいですか? 例えばActive8さんは、キズナアイだけを伸ばしていくのか、もっと他のことをやりたいのか。

大:4千人いても、1万登録者以上いるVTuberって実はそんなにいません。「今一瞬のブームで終わらないようにするには、どうしたらいいのかな」 みたいなことは強く感じています。

高:自分のところ以外に見てて「面白いな!」というものは?

AO氏(以下、A):面白いところばかりなんですけど……(笑)

一同:ハハハ!

高:例えば「鳩羽つぐ」とか、動画3本くらいしか上げていないのに、スゴい数字伸びていますよね。YouTubeのセオリーからすれば外れていると思うけれど、ああいうYouTuberっぽくないコンテンツだからこそ、色んなフォーマットで展開できそうですよね。

A:同じです……(笑)

大:アニメの文脈から描いて、どれぐらいつぐちゃん自身にファンがついているのか興味があります。今後どういう伸び方するのか気になりますね。


(謎多きVTuber「鳩羽つぐ」。チャンネル登録者数は13万人)

高:AOさんはどうですか?

A:ウチは一番デタラメだと思います(笑)。ただただ自分たちのやりたいことをやっているだけ。例えば、 インターネットが将来、仮想世界へバージョンアップされる と思うんですよ。ウチは、そのバージョンアップまでに間があるなら「その間を縮めようぜ」みたいな理念でやっています。それで「縮めるにはどうすればいいだろう?」と考えていた時、たまたまアイちゃんを見て「そうか、人間か」と。 仮想サイドの偶像を作り出して、人間を魅了できたら普及する と思いました。だから、それにつながるのであれば「何でもしよう」というスタンスです。

塚:僕は、人とキャラクターの中間地点にあるこのコンテンツが世の中に普及すれば、新しい概念の浸透で、その周りに商売が生まれると考えています。この市場が伸びる一番のきっかけというのは、やっぱりキズナアイや輝夜月のような天才。YouTubeが伸びた時と同じように伸びてくれればいいなと思ったんですが、そういう天才がいっぱいいるわけでもないですよね。

高:ハハハ、素直(笑)

塚:誰か、早く何か作ってくれないかな〜と密かに思ってます(笑)

一同:ハハハ!

宗:ウチは2010年代始めからアプリ開発もしているんですが、その時と状況が少し似ているかなと感じています。当時、アプリ開発が盛り上がってきたら大手さんや色んな会社さんがどんどん参入してきて、議論したり飲みに行ったりとかして、横のつながりで情報交換しているうちに、さらに業界全体が盛り上がっていくという、今回同じような流れができつつあります。
そういうのは計画的にどうこうというより、気付いたら面白いコンテンツもできてきて、大手もどんどん参入してくることで、各所から色んな予算が下りてきて業界が盛り上がる。そういう印象はあります。


(チャンネル登録者数74万人となる人気VTuber「輝夜月」)

谷:個人的には、今の状況は芸能界の黎明期に近いと感じていて、二次、三次のAKBみたいに僕は捉えています。今は昔の芸能界、まだピンクレディーもいない状態(笑)。

高:世代が分かる(笑)。

亀:まだピンのアイドルしかいない、そういうアイドル文化初期の時代。

高:他に、こういうことを実現したいことありますか? もっと海外の市場を開拓したいとか、チャンネル登録者数を日本一の規模までVTuberを成長させたいとか。

A:ソレント(※『レディ・プレイヤー1』に登場する悪役)に仮想世界を牛耳らせたくない(笑)

一同:ハハハ!

塚: VTuberが一過性のYouTube内現象で終わるのか、はたまた人や企業が集まってきて全てが置き換わるのか。 僕は全部置き換わると考えているんですけど、置き換わるために条件があると思っています。
今、流れるプール的に業界がスゴく勢いで流れていて、そのスピードが速くなればなるほど遠くに行く可能性は上がる一方、参加者全員がリタイアして陸に上がっちゃうと「終了」になってしまう。速くなりつつ、皆がそこにしがみつくことが大事。流れに身を任せつつ、溺れないように、陸に上がらないように、というのを意識しています。

高:ベンチマークにしていることって何ですか?

大:国内のみはあまり意識しなくて、世界単位で考えたいですね。手段として先に世界を攻めるぐらいな感じでもいいのかなと思ってはいる感じですね。本当に漫画、アニメのように海外で受け入れてもらえる日本の資産にしていきたいです。そのチャレンジは続けたいと思っています。

■VTuber爆発のカギは一般ユーザーへの認知拡大

亀:一口に人間と言っても、世界規模で考えると宗教とか人種とか様々な問題があります。例えばウチのTokyo Otaku Modeだと、20%ぐらいが外国籍の従業員なんですけど、彼らに話を聞くと、僕のような黄色人種に対しても、肌が黒めだと認識して「黒人だ」と言う人もいるらしいです。今のキズナアイだと、わりと白人っぽい。ただ、展開場所によっては、ローカル化することも可能性としてある。例えばドバイに行ったらちょっと肌を黒くするとか、そういったことは今後考えられるんでしょうか。

A:「日焼けしました」みたいな(笑)

一同:ハハハ!

亀:今のこの流れって、グルーポン大戦争みたいなのにちょっと近いかなと思っています。グルーポンが日本で流行った時、国内で400サイト、中国で3000サイトぐらいできて雨後のタケノコ状態になりました。しかも 今回のVTuberは、資金があれば個人でもできる。だから全体のスピードはもっと速くなる と思うんです。そこで気になるのが海外の動きなのですが、もしご存知の方いましたらぜひ教えてください。

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(「キズナアイ」も参加する バーチャルタレント支援ネットワーク「upd8」)

大:初音ミクをモデルにしたMMD(MikuMikuDanceの略称)が、ニコニコ動画で盛り上がりましたが、日本人はそれに近いノリで始めています。けれども、海外の一般のクリエイターはそういうノリで始めないです。

A:そもそもキャラクター大国が少ないですよね。キャラクターに対して愛情を向けるのは、ドラえもんやマリオがある日本と、マーベルやDCコミックスが長年人気のアメリカくらい。

大:よく海外の投資家の人と会って話しますけど、VTuberは「ビジネスモデルが確立していない」と捉えているんですよね。特に中国は、YouTubeがないからイメージが分からない。 本当はその先に、『レディー・プレイヤー1』みたいな仮想世界、大きくスケールするビジネスがある。それなのに「将来スケールするための準備を今しているんだよ」というイメージがほとんどない。 例えばアニメ化といっても、中国はセルアニメがようやく出てきたぐらいで、コンテンツ的にも3Dアニメはこれから。3Dアニメとタレントというところの親和性も理解できないことが多い。その辺はどんどん啓蒙していかなきゃいけないなと思っていますけどね。

高:僕は「海外」というのが1つのキーワードだと思っています。視聴者属性とか見ても、 こと日本のYouTuberで国境を越えられている人って、ほぼいないんですよ。逆に海外のYouTuberが日本に来れないのも、言語的な問題だったりする んですよね。逆輸入的にHIKAKINが一番最初に火がついたのは、ヒューマンビートボックスをやっていて、「Super Mario Beatbox」という動画でスーパーマリオの曲をカバーした動画が海外のメディアに取り上げられたりしたことが一つのきっかけだったりしますし。

塚:なるほど。

高:今のキャラクター展開は日本独自のコンテンツ文化だし、輸出されるべき要素の一つだなとは思います。 VTuberの文脈は、今までのYouTubeとかYouTuberと状況が似ているようで全然似ていない、 というのは感じますね。今後YouTubeみたいなプラットフォームから飛び出たところでどんなことをやるのか、そっちの方が興味があります。

亀:他にご意見のある方は?

A: 究極の問題はおそらくファン層じゃないでしょうか。現状、海外のオタクにウケているだけなので、海外のオタクにウケるのと海外の一般層にウケるのは、意味合いが全く別。 本当に海外にウケようと思ったら、やり方が変わってくるんだろうなと正直思っています。

亀:海外のオタクの人ってそんなに数が多くないのと、Google Playのアメリカの担当者に、日本の流行っているゲームとか見せると、ちょっと受け入れられないらしいんです。美少女ゲームもうまく意味が理解できない。ユーロ圏でも同じ。特にアジア圏だけが特別なマーケットなので、ゲームの課金がとんでもなく高い。

谷:ほうほう。

亀:一方アメリカだと、クロスワードパズルとかで遊んでいる幅広い年代層がいて、ウェブ上のスーパーカジュアルゲームとかが流行ったり。日本と韓国だけ突出しちゃっているようですね。一般向けだったら、やり方を変えないと、バービーちゃんみたいな感じで振り切って、外国人向けに受けられるキャラクターを作ってみたらまた違うかなと思いますね。

大:1キャラで全部制覇するのは無理だというのが印象としてあるので、やっぱりローカライズの方に走るのかなと。

亀:アメリカの「アベンジャーズ」みたいな集合できてしまうもの作ったらどうですか?(笑)

一同:ハハハ!

前編終わり

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