「キュイイイイイ…ギン!!!」が世界に響いた日 -劇場アニメ『BLAME!』TOM多国籍座談会報告書-

明日から二週間限定で公開される劇場アニメ『BLAME!』。

それはどれほど凄いことなのか。

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原作未読の方にはまず事の重大さを伝えねばならない。

『BLAME!』は1997年から2003年にかけて講談社の月刊アフタヌーンで連載された弐瓶勉(にへいつとむ)先生による日本のハードSF漫画の金字塔である。

とにかく無口な主人公、見ているだけで病気になりそうなクリーチャー、気が遠くなるようなスケール感のディストピア世界、シュールなくらい進む作中の時間経過、ネット黎明期に描かれた終末、暗いページの割合で読み終える頃には黒くなる指先…

さらに現在日本を代表する漫画家や海外の超有名アーティストにも影響を与えている問題作である。

それが明日、20年近くの時を経て3Dアニメで劇場公開されるのだ。

申し遅れましたが、筆者はTokyo Otaku Modeで翻訳サービスを担当しておりますハギノと申します。

高校生の頃に弐瓶勉先生の作品に触れて以来ファンになり、新装版『BLAME!』の読者キャンペーンに応募して当たった重力子放射線射出装置のレプリカを家宝にし、作中にスターシステム的に登場する企業「東亜重工」ロゴ入りの服を2日に一度着用して出社している。

※物語に関わるネタバレは一切無いのでご安心ください※

■CGに!音響に!度肝を抜かれた『BLAME!』試写会

4月末某日、アニメ好きの外国籍の方15人あまりを招き、試写会が行われた。

同日16:00、目黒、今回の試写会場のソニーPCLさんにて上映開始。

何よりも特筆すべきが音響。「Blu-ray出るんでしょ?」「Netflix入ってますが何か?」「俺、ヘッドフォン、好き」という方は是非最寄りの劇場に足を運んでいただきデトックス効果がありそうなほど研ぎ澄まされた音を楽しんでいただきたい。東亜重音(いいネーミングですね)なる音響にこだわりまくった企画上映も行われるので楽しみで仕方がない。

映像に関しては最先端の3DCGアニメーションを堪能できた。「CGアニメかぁ…」「ポリゴンが粗いとね…」という諸兄にこそ、この最先端のCGアニメを体験してほしい。

「シドニアの騎士」で驚かされた大型メカ戦とはまた違った、等身大のスムーズなアクション、洗練された見ていて気持ちの良い/悪いテクスチャー、一つ一つの動きを意識し更に進化したカメラワーク、そしてなによりもこれまでのCG映画よりかわいい女の子に度肝を抜かれることだろう。

また永遠に近い時間をさまよう原作を、映画というフォーマットに落とし込むにあたって作られた起承転結のあるストーリー。

明日から始まる一般公開でもう一度観たい。

■ TOM多国籍座談会開始

試写会参加後、余韻に浸りながら座談会に向かう。会場は弊社Tokyo Otaku Modeの会議室だ。共に上映会に参加していただいた中で特に盛り上がった6人とピザを囲んで自己紹介を行った。

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メンバーは6人:

オディさん(フランス人/右奥)
AJさん(アメリカ人/右中央)
ベンスキーさん(アメリカ人/右手前)
チョウさん(中国人/左奥)
シャさん(中国人/左中央)
ロシオさん(チリ人/左手前)
と筆者(日本人)である。

原作未読者も居たので、まずは未読者のために『BLAME!』という作品について説明した。

以下、参加者の反応。

■『BLAME!』ってなあに?

ロシオさん:え、あんなにインターネットとかの話なのに20年前の漫画だったの?

ベンスキーさん:そうなんですよ。インターネットの始まりの次期でシンギュラリティ後の世界を書ききっていたのは改めてすごい。

AJさん:なるほど…ネット技術の暴走があの超構造体を作ったんですよね。

あれって現代の3Dプリンターとかみたいなものとかでガンガンやっているんですよね…?先取りしすぎじゃないですか?

オディさん:技術、デザインだけではなく、概念とかもメインストリームな洋画SFに影響を与えていそう。それが一周して今、日本で映画化されていて本当におもしろい。

シャさん、チョウさん:本当にそれ!あとデザインがすごい。機能的でありながらかっこいいし…

作者である弐瓶先生の建築関係の経歴を見て一同納得していた。

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■映画を見る前はどのようなイメージを持っていたのか、特に『BLAME!』というタイトルや予告編から読み取ったものは?

AJさん:「blame」って英語だと「非難をする、責任を問う」というような意味なので、見ながら「どういう意味なんだ…誰が誰に責任を…?」と思いました。

ベンスキーさん:そうなんですよ、あの超構造体(メガストラクチャー)まみれの世界が何故、誰のせいでああなったのか、とか考えていましたね。

シャさん、オディさん:え、ちょっと待ってください、読み方「ブレイム」じゃないの?

筆者:(ブラムとカナのふられた映画のポスターを指差す)

チョウさんオディさん:あ、ホントだ…。え、ナンデ!?

一同:(笑)

ロシオさん:タイトルについてはわかりませんが、私は普通のラブコメ/冒険系の映画だと思ってました(笑)ポスターにいるシボとヅルが霧亥と恋をして…みたいな…

ベンスキーさん:キャラクターデザインもシドニアと原作の中間くらいのほどよいシャープさ/可愛さでしたね!

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もしかしてロシオさんブラム学園*既読者…?かと思ったが完全に原作、スピンオフ未読とのことだった。それも映像で見たいですが…

ちなみに筆者はインターネットで得た知識をひけらかし、「BLAM!」(ドカン!/バン!)という効果音の英語表記を「『BLAME!』」と書き間違えたという噂を信じています。

真相やいかに。

(*弐瓶勉先生ご本人による学園モノの『BLAME!』セルフパロディー(?)短編集。本編のハードな世界観はどこへやら、ギャグとお色気いっぱいの物語は、今もなお多くの読者を困惑させながらも楽しませている。)

■デザインと言えば、作中に独特のフォントで漢字の表示がかなり出てくるのですが、その辺国際的なオーディエンスのみなさんは理解できましたか?

オディさん、AJさん、ベンスキーさん、ロシオさん:一部読み取れました。フォントかっこいい。ほしいね。

チョウさん、シャさん:(ニヤリ)

AJさん、ベンスキーさん:え、読めたの?

チョウさん:全部読めるし、全部わかる。(ドヤァ)

チョウさんとシャさんは中国語ネイティブなので完全に理解できていたようだ。

心底うらやましい。

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■視覚ときたら聴覚、ですが言語、音に関してなにかありますか?

ロシオさん:声優が素晴らしいですね。櫻井さん、宮野さん出ていたし。イェイ!

ベンスキーさん:シボの声優の花澤さんが本当に好きで、あとシドニアに続きangelaが主題歌でかっこいい。早く販売してくれ!

明日配信開始予定なので、筆者も購入予定。ちなみに彼はアニソンDJもやっている。

オディさん:霧亥の話し方がとてもおもしろかった。たぶん長い間まともに会話してないんでしょうね。霧亥以外にも状況に応じて声にエフェクトがかかることでキャラクターの状況や心境を表現しているシーンも多々あった。

チョウさん:声優もだけど、映画館で見れたので音が最高。肌で感じた。(重力子放射線射出装置特有の「キュイイイイイ…ギン!!!」の音真似をしながらポーズを決める)

チョウさんとは後日徹夜で飲みに行こうと思った。『BLAME!』コラボカフェも検索済みである。

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これ以降の会話はかなりディープに物語に入るため、今回の座談会で公表できる内容はここで終了。実際に劇場に足を運んで体験してほしい。

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正直筆者は本作の難しい特殊用語がゴロゴロしている(重力子放射線射出装置、統治局、端末遺伝子)ので理解しづらいのではないか、世界観が膨大すぎてつかめないのではないか、説明セリフ過多か視聴者置いてけぼりパターンのどちらかになるのではないか、初見の方にとってはかなり難しい映画になるんじゃないか、と心配していた。

だが一切の心配は必要なかった。

本作は一本の話にきれいにまとめられ、必要な時に必要なだけの情報を、しかもそのほとんどを「show, don’t tell.」(言葉で説明するのではなく実際に見せる)をやっていたので非常に見ごたえがある。

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そんな劇場アニメ『BLAME!』は明日公開。

筆者も今度は一度目では置いきれなかったディテールを楽しむべく、2回目、3回目のダイブに挑戦しようと思っている。

麺処 まるわさんのコラボ麺「ネットスフィア」を宅麺さんで注文し、舌鼓を打ちつつ謎めいた「ネットスフィア」をつつきながら。

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