【第1回VTuberサミット:後編】既存ビジネスとの決別と仮想世界へつながるVTuber作り
バーチャルYouTuber(以下、VTuber)の課題や今後について討論する「VTuberサミット」。第1回目の模様をお届けする最終回は、既存ビジネスとの関係性や業界の将来、そしてVTuberの今後について意見が飛び交った。
■「第1回 VTuberサミット」サミット参加者一覧
【亀井智英】
Tokyo Otaku Mode Inc.の創業メンバーの一人( https://twitter.com/tomohkamei )。現在は同社代表取締役会長。経済産業省クールジャパン官民連携アドバイザリーボードの現メンバー。本サミットの発起人。
【高田順司氏】
大手YouTuber向けプロダクションで役員をつとめ、現在は独立。株式会社hayaoki 代表取締役。 https://twitter.com/uchu_jin
事業開発やYouTubeなどの動画関連のアドバイザーなどを行う。
【大坂武史氏】
Activ8株式会社の代表取締役。人気VTuberの「キズナアイ」も参加する バーチャルタレント支援ネットワーク「upd8」を運営。
【AO氏】
人気VTuber「輝夜月」のボス。
【谷郷元昭氏】
VR/AR技術を活用したキャラクターライブ配信やVTuberを展開するカバー株式会社の代表取締役。人気VTuberの「ときのそら」や「ロボ子さん」などを手がける。
【宗像秀明氏】
株式会社アップランドの代表取締役。広告代理事業やアプリ開発、VRプラットフォーム「VR LIVE」などを展開。人気VTuberの「電脳少女シロ」や「ばあちゃる」なども手がける。
【塚本大地氏】
株式会社DUOのCEO。人気VTuber「ミライアカリ」の展開やVTuber事務所「ENTUM」の運営を中心とした事業を手がける。
■テレビ露出はメリット小 音楽ビジネスは自立可能
亀井智英(以下、亀):色々話してきました。残りの時間で、「絶対これは話したい」ということございましたら、ぜひどうぞ。
高田順司氏(以下、高):失敗じゃないんですけど、皆同じ悩みなのかなというのが、 成長速度が早過ぎる こと。あと参加企業が少ないがために、色々なところから色々な話があり過ぎる。受けちゃいけない仕事、関わっちゃいけないものが多い中で、何か色んなものに手を出し過ぎて、自分たちのやりたいことの進む速度がとても遅れているという時期があって、どうなんですかと。僕はそう感じているんですが。
亀:それは「ベンチャーあるある」ですね
AO氏(以下、A):ウチは、編集権限がないメディアやテレビには一切出ません。理由は 誤解されるような情報が出回る可能性やリスクが高いから 。だから何かコラボなり出したいのであれば、うちが最終的な動画を出す・出さないの判断ができるフィールドでしか活動しません。
大坂武史氏(以下、大):ウチは、案件の量を絞ったぐらい。
高:それはどういう意図で?
大:単純に受け切れないんです。初めてお仕事もらった時とかは、そもそもVTuberというものに発注していいのか、みたいな雰囲気もあったので、フルスクラッチで「何でもやります!」っていう姿勢だったんですけど(笑)
宗像秀明氏(以下、宗):ウチは、とりあえず試してみます。ただその結果、チャンネル登録の純増に別に結び付いているわけではないので、いったんやってみて、どんな感じかなって、こちらも手探りでやりながら。
(株式会社アップランドのVTuber「電脳少女シロ」。マツコ・デラックスとの共演や、高い英語力を活かした海外のゲーム見本市「E3」レポート企画など行った)
大:最近、既存の商慣習に従わなければいけないものは、基本的に遠ざけようと意識しています。特にコンテンツIP、アニメ、テレビ、芸能なんてムチャクチャしがらみが多いです。「新しいルールを俺らが作っていくぞ」ぐらいの姿勢で、刺される覚悟でやっていかないといけないと思っています。でもそれで色々トラブったこともあります。 既存の商習慣はまやかし なので、それを強いられる仕事はセーブするというのが今のスタンスです。
高:すごく共感します。
大:「我々はこういうやり方なんです」という話はあまり受けません。IT業界とか海外とかベースに考えると、それは当然やるべきこと。超カンタンなところで言うと、 ある業界なんて契約書がほとんどない じゃないですか。あれはおかしい。契約書交わしてくれないのであれば、こっちもやらないだけ。テレビに出るのは意義があると思っているので、僕は続けてはいこうと思います。ただ皆さんのおっしゃるとおり、向こうの土俵に必ずガッツリ乗らないといけないのであれば「じゃあ、やらない」と断るだけです。
大:テレビの話で言うと、アイドルの広がりとかにけっこう影響している気がします。日本のアイドルって、意外とアジアに浸透していないと思うんですよね。なぜかと言うと、たしか 日本で撮った番組は、権利の問題とかあって海外でなかなか放送できない という話しも聞きます。だけど韓国のアイドルグループとかは、日本に比べて障壁が少ないから色んな国で放送できる。日本は、まずそういう課題をクリアして、アジアで君臨するところまで行かないと。
高:テレビ出演したりイベントをやったりすると、色んな取り組みの話が来るんでしょうけど、結局、 組む理由が1つもない というのが大きいんですかね。
大:そういう毅然とした姿勢を保たないと、某業界と同じ道をたどるだけかなと思います。本当に海外基準で考えて、日本でいくらCDやDVDが売れるからって、そこに乗っかったビジネスはしない。せっかくその先のVRみたいな超自由な世界につながるようなことをやろうとしているんですから。
宗:最近「歌とか出さないか」みたいなお話が来ているんですけど、あれこそスゴい既存の商習慣的なんですよね。印税の話だとか……。
亀:そういうのは、まわりに事情通の経験者がいないとダメですね。たぶん彼らと交渉しようと思うと「ウチはこれしかできないんで」みたいなことになります。そういう主張ばっかりで、カウンタートークが打てない。経験者がいないと交渉になりません。
大:ただ、その事情通の人も、どこかに依存しているというのを感じます。それにこと音楽に関しては、権利関係が厄介。となると、自分でやるのも一つの手で、自分たちでもやっていける選択肢はあるとは思うので、それでもいいんですけど、そうなると、今度はテレビでの映像使用料とかが入ってこない。そうなると「やっぱり寄らば大樹の影がいいかな」とかモヤモヤとした感じになっちゃう。
(カバー株式会社のVTuber「ロボ子」人気VRゲーム「Beat Saber」のプレイなど、幅広い動画を投稿している)
高:レコード会社は、原版製作のコストを負担する代わりに、そういう権利を持っていったりするわけですよね。けど、マーケティングするリソースなんて、それこそVTuberとかYouTuberとかの方がもう発信力を持っていて、別にレコード会社を必要としていない。唯一必要とするのは出版管理ぐらい。なので、パッケージを作る、配信するみたいなことで言えば、ここにいる皆さん全員ができると思うんですよ。だから レコード会社が介在する理由がほとんどない 。正直、出版管理の部分だけやってもらえればいい。 権利を握らせる必要は全くない はずなんですよね。
亀:プロモーションも「自分たちでできるからいらない」という話になりそうですね。
大:でも中には面白い方がいるので、「その人と仕事できたら面白そう」と思うぐらい。
高:それ、スゴくわかります。
■ネクストステップはVTuberの細分化、未知の巨大市場の情報発信
亀:これまで話を聞いてきて、 マーケットを大きくして視聴者が増えれば、業界全体が潤って中間層以下の人も恩恵を受ける 印象を受けました。なので、中間層を今後どうするかという点と、どうすればマーケットを拡大できるかという点を並行して考えるところから始めてもいいんじゃないかなと思います。
大:どの方向にデカくするかですよね。日本から海外なのか、一般層をターゲットにしていくのかとか。そのあたりは整理したいですね。
A:どっちも起きると思いますよ。そもそも一般層に向けたキャラが出てきて、全然違う会社から、これから。刺さり始めるとかいう現象が起きるかもしれないですし。
大:その流れでいくと、“VTuber産業”みたいな感じになるんですかね。僕自身は少し広く捉えて、もう「バーチャルYouTuber」という言葉を使わず、「バーチャルタレント」と言って、YouTuberがどうのじゃなくて、その先にある仮想世界とか含めていました。
これからブロックチェーンの人たちも台頭してくることを考えると、 中央集権的なものから、分散型につながるところまで行くビジョン があります。そういうことを分かった上で、色んな会社さんが参入してきてくれるんだったら嬉しいです。けど、結局何か団体だけポンと作っても、よく分からない人たちが「その考え、賛同します!」とか言ってのっかってきたら、おそらくアンハッピーな結果に終わる。今のところ、VTuberに興味あるよという経営者の方とかの中にも、先の未来が見えていないのかなと思います。
亀:なるほど。
高:これまで色んな人たちと会ってきましたけど、3DのYouTuberを作る価値が「分からない」という人が多かったです。でも、リアル世界よりもこっちの世界の方が、ビジネスチャンス多いんですよ。 リアルの世界は70億人ですけど、こっちはもっと大きな市場になる可能性ある という面を含めて、情報発信していけるといいかなと思っています。
亀:VTuberから始まったけど、そこから他のところにも行ける形になっているし、実際テレビに行っちゃっている人たちもいるので、何かそれをもう少し大きく解釈して進めていくというので、VTuberだけにかぎらなくていいと思いますね。
(株式会社アップランドの男性VTuber「ばあちゃる」。「バーチャルYouTuber人狼」やVTuber同士のeスポーツ大会など、司会役として企画に登場することが増えている)
大:YouTubeに投稿しないバーチャルタレントもいっぱい出てくると思います。
塚:出てきますね。
亀:手っ取り早い手段がYouTubeだったというだけ。きっかけに過ぎない。
大:どっちに進めていくかによって、VRコンテンツを作っている方々とかも入れていかなければいけないのかとか、逆にタレントマネジメントやられている方とか、そこら辺の方向性を含めて、若干方向性の大儀みたいなものを作っていった方がいいんじゃないかなと思います。
亀:それをネクストステップにしますか?
大:結束した方がいい部分も多分にあると思いますが、どの部分でどうつながって……みたいなことは、共通認識として持っている課題というか、行きたい方向性みたいなものを最初に1つ用意していただいた方がやっていきやすいんじゃないでしょうか。
亀:そうですね、分かりました。高田さんと相談しますw
塚:次会う時は、また状況が変わっていると思うんですよね。そのときに話すべき問題も、いろいろ変わっていそうだなと思っています。
大:各社それぞれVTuberとか、呼び方も違うかもしれないし、定義も多分違うという状況だと思うので。僕自身が定義しきれていなかったりするので(笑)。だからそこら辺、今の段階でとりあえずまとまりましょうというのは厳しいですかね。
A:おそらく、色んなことが 「VTuber」という言葉にまとまり過ぎ なんですよ。お金もうけが目的ではない人もいれば、技術を楽しんでいるギーク、タレントキャラクターを作りたい人、容姿をアバターで実装したいという人もいる。細分化していったら細かく分かれるものを「VTuber」とまとめている。下手に「VTuberセミナーやります!」とか発信すると、反発食らうところから食らうんですよね。なぜかというと、考え方が全然違うから。だから、もうそろそろ細分化してもいいのかなと思っていて、それに合わせた話し合いとかをしてもいいのではないかと思います。4千人もいれば、絶対皆違う考えを持っているはず。
(株式会社DUOのVTuber事務所「ENTUM」に所属する「猫宮ひなた」。人気FPSゲーム「PUBG」のプレイ動画などで見せた高いゲームセンスが話題に)
高:演者のマネジメントにフォーカスしたりとか、技術の話とか。
A:あるいは作品にフォーカスしたりとか。多分それで興味ある人がそれぞれ来いよみたいなスタンスの方がいいんじゃないでしょうか?
亀:分科会みたいな感じで?
A:そうですね。そもそも皆が思っているVTuberの定義が違うから、勝手にVTuberの定義を決めない方がいいと思います。将来的に、それぞれ必要そうなスキルの話し合いとかをして、興味ある人だけ参加できるといいですね。
大:私は、今後のビジネスモデルって、今と全く違うと思います。だからどこら辺のレイヤーの話をしていけばいいのかなというのがあります。そこが見えれば、今後も意義のある会議ができると思います。
高:まずは1個ゴールだけ、皆ある程度向かう先が近いジャンルだったらいいと思います。最終的にYouTuberで終わらず、 仮想世界へダイブして行こうという思い を胸に、色々な人が集まっていく。そういう体だったら、皆話しやすいんじゃないですかね。「俺はギークの部分で話す」「こっちはタレントマネジメントで話す」という、おのおの話したいことを、ゴールに向けて好き勝手語ってもらう。
大:テーマは設けるんですよね?
高:はい。ただ変に限定しないほうが皆話しやすい気がしますね。
大:少なからず自社のキャラクターがやっぱりある一定以上のプレゼンスを持っているメンバーというふうに考えれば、そこから享受できるメリットは共通しているのかなと思うので、それでいくと、やっぱりVTuberが増えてきて、VTuber自体が注目されると、やっぱり真っ先にここにいる会社のキャラクターが注目されていくという意味では、業界自体を盛り上げるとか、中間層問題を考えるというのは、業界全体にメリットのある話なのかなという気はしますね。
高:今回色んな課題やアイデアが出ました。何のためにやるのかとかその題目を考えたりとかして、また皆さんに「どんな感じですか?」と投げさせてもらいます。次回会う時はまた状況が変わってくると思いますので、その都度方向性を調整していきましょう。
亀:とにもかくにも、Vtuber界隈が盛り上がりつつあるのは、今この瞬間に楽しんでくれているユーザーがいるからこそ。そこは感謝していきたいですね。ユーザーへのリスペクトを持って、今後も実りあるサミットにしていければいいですね。
塚:そうですね。
高:では、これにて第1回目のサミットを終わらせていただきます。またお会いしましょう。
活発な議論が展開されたVTuberサミットの第1回目。VTuberはこの先どんな未来をたどっていくのか。『レディー・プレイヤー1』のような仮想世界は本当に誕生するのか。VTuberサミットの今後とともに、乞うご期待!
【終】
【第1回 VTuberサミット】に関する記事
- 【第1回 VTuberサミット:前編】VTuber事業は『レディプレ』的仮想世界へダイブする準備
- 【第1回VTuberサミット:中編】VTuber業界が直面する課題、そして今後の人気飛躍の可能性とは?
- 【第1回VTuberサミット:後編】既存ビジネスとの決別と仮想世界へつながるVTuber作り