【新サービスはどう作られているか】ブロックチェーン・プロジェクトの舞台裏を限界まで公開

この記事はブロックチェーン関連の新サービスがどのようにつくられているか、舞台裏について書かれています。これを読むと、「へー、こんな感じでプロジェクトが始まって、こういう資料をもとに、こんな具合に進むのか」という新サービスが生まれるまでの流れを生々しく把握できると思います。

はじめまして、Tokyo Otaku Mode(以下、「TOM」)という会社で、日本のオタク文化を世界へ広げる活動をしている安宅(@paji_a)と申します。先日、「ホンヤククエスト(Tokyo Honyaku Quest)」という、オタク文化を愛する世界中のファンがほかのファンのためにコンテンツを翻訳するブロックチェーン・プロジェクトを開始しました。2019年内は実証実験で、アニメニュースなどアニメ関連情報の日英翻訳からスモールスタートしつつ、近い将来、アニメ・マンガ・ゲームなどのオタク系コンテンツをあらゆる言語で翻訳できる環境をつくることを目指しています。

Twitterなどで感想やリクエストを送っていただけると嬉しいです。

目次を作りましたので、ぜひ興味を持った項目からご覧ください。

<もくじ>

■ ゼロからイチを生み出すキックオフ編

   構想からプロジェクトにする
   コミュニケーション方法を決める
   「契約書」と「NDA」を結ぶ
   各社の役割を決める
   サービスの名前を決める
   用語を決める
   決起会を行う

■ 構想を具体化するサービス設計編

   エコサイクルを設計する
   サイトマップをつくる
   仕様を決めてワイヤーフレームをつくる
   開発仕様を決める
   世界観を設計する
   フックモデルを設計する

■ 設計をカタチにする制作&開発編

   スケジュールを切る
   ロゴを制作し商標を申請する
   デザインをつくる
   紹介動画をつくる
   開発を進める
   プライバシーポリシーと利用規約をつくる

■ 世の中に売り出すマーケティング編

   キャッチコピーを決める
   初期ユーザーを集める
   カスタマーサポートとツールを導入する
   プレスリリースを打ちイベントを開催する
    検証項目を設計する

<番外編>

   はじまりの話
   もうひとつのチャレンジ
   社内向け説明資料をつくる
   補助金制度を活用する
   ビジネススキームを固める
   おわりに


■ ゼロからイチを生み出すキックオフ編

構想からプロジェクトにする

「ホンヤククエスト」がどのような経緯で生まれてきたかは「番外編」に委ねるとして、2018年12月19日に構想を下記のようなテキストでまとめたのが、このプロジェクトのスタートでした。


書かれている項目を書き出すと、
・どんな構想なのか
・どんな目的で構想しているのか
・いつごろ行うのか
・どんなお披露目をするのか
・どんな機能があるのか
・各社の役割とメリットはなにか
・当初検証する項目はなにか
・どんなユーザー層を狙うのか
・どんなデザインイメージか
・将来目指す理想形はなにか
・どう展開するのか
・どうプロモーションするのか
・翻訳者への報酬設計はどうなるのか
・どんなリスクがあるのか
・法務・財務などの確認事項はなにか
・目標と撤退条件はなにか

など、各社で検討を進めてもらうために最低限必要な情報を書き出しています。とても文字文字しいのですが、パワーポイントなどを使ってしまうとどうしても”見栄え”をこだわりたくなって、本質的な内容を仕上げることからフォーカスがぶれてしまうので、文字中心に最初の構想をつくるようにしています。

この構想(ポエム)を元に、イードで事業統括をされている土本さん、bitFlyerで新規事業開発を担当されている三瀬さんとともにメッセンジャーでグループを作り、全員が直接会う前からやりとりを開始しました。2019年1月に3人でボッシュカフェにてコーヒーを飲みながら初のミーティングに臨み、「実現したいサービスがクリアである」「解決したい問題が大きくていい(日本の国全体が抱える問題)」「各社の強みを活かせる」「実現させるためのすべての機能が揃っている」「本腰を入れる前に実証実験を行って手応えを確かめていく方が良い」「最初は権利関係が複雑なコンテンツそのものよりも関連情報=アニメニュースなどから翻訳実績を作ったほうが良い」「各社のニーズにも合致している」「各社がブロックチェーンという新しい技術に対してポジティブ」などの話をして、各社でプロジェクト進行の承認に向けた調整をかけていくことになりました。


コミュニケーション方法を決める

2019年1月末に、各社の調整が進み、土本さんと三瀬さんと私の3名でプロジェクトを進めていこうと認識がすりあった後、「日々の連絡はどうしましょうか」という話になり、SlackチャンネルとTrelloを作成、かつ、週1回の定例ミーティング(60分)を開催することになりました。ちなみに、定例ミーティングは各社の時間感覚が似ているからか、最初から移動時間の短縮のためできるだけビデオチャット(Zoom)でやりましょうという方針にすんなり決まったことは、”働き方も多様な時代になったものだ”と印象深かったです。

▼Slack


▼Trello(クエストボード)


▼Zoom


定例ミーティングは毎回Trelloをベースにアクティブなチケットを一周し、新しい議題がある場合は、誰でもチケットを追加できるように運用しています。こうしておくことで、進行管理の漏れがなくなり、誰でも俯瞰した視点で、誰が何を行うのかがざっくりと明確になります。そして、そのチケットごとに細かくブレイクダウンしたタスク管理はそれぞれの担当が自由にツールなどを使って進行できるようにしています。

ちなみに、Zoomの有料化と同時にAIによる雑音消去のプラグインKrispも導入し、他サービスに比べても非常に安価で快適にリモート会議ができていると思います。


「契約書」と「NDA」を結ぶ

今回関係する会社は、それぞれ一定規模の大きさの会社組織ですので、会社から「やってみよう」と承認がおりて決まったあとに「急にや〜めた」をされてしまうと、各社が困ってしまいます。また、話した内容には外に共有されては困るセンシティブな情報も入ってきます。そうした情報を外部に出されてしまうと問題になってしまうので、覚書レベルの「契約書」と「NDA(秘密保持契約書)」を結んで、早い段階で具体的な深い話をできる状態に持っていきます。プロジェクトの最初にやるべき大事なステップです。

各社の法務部と確認を取りながら、早い段階で「契約書」と「NDA」を交わしました。当初は実証実験を行うということで、契約書の内容も比較的シンプルでクイックな進行ができました。また、各社ともなるべく手弁当で力を出し合い、コストやリスクは大きすぎない無理のない形でスタートを切るように認識をそろえていました。また、そのようなライトな進め方でもプロジェクト内のメンバーの熱量が高く、プラスの相乗効果で勢いよく進行したように思います。




各社の役割を決める

今回協業をしていく3社はそれぞれに強みがあり、(一部の機能は重なるものの)会社ごとに持っている機能も特徴が分かれており、役割分担も比較的スムーズに決まったと思います。構想からお互いにフィードバックしあいながら、2019年4月頭時点での大ざっぱな役割分担のタタキはこちらでした。

<各社の役割>

企画・設計:TOM(サポート:各社)
サイトデザイン:TOM(サポート:イード)
サーバサイド開発&サーバー運用:イード
ブロックチェーン関連開発:bitFlyer
カスタマーサポート・コミュニティ運営:TOM
アニメアニメ英語版サイト:イード

※上記の役割分担は適宜相談し途中で変更可とする(双方合意に基づく)


サービスの名前を決める

当初はサービス内容とブロックチェーン用語の組み合わせで機械的な「翻訳Dapps(仮)」というコードネームのような呼び方をしていました。話が進むにつれ、いよいよロゴを作ったり、ドメインを取るためにも、サービス名を決めようという話になりました。2019年2月初旬の話です。

サービスをつくる当事者として一番ワクワクするのは、ネーミングのアイディア出しのブレストだと思っています。ここで決めたネーミングが後世に残る可能性もあるので、最高にエキサイティングな瞬間です。

手前味噌ですが、過去に複数のサービスを企画・開発していた経験から、これまで私がネーミングしたサービスや会社がいくつかあります。ネーミングは自分の力を発揮する領域なので、Tokyo Otaku Modeの創業時にも張り切ってアイディアを出していました。全部で100以上のネーミングが集まったのですが、その中で明らかに輝いていたネーミングこそCCOの森澤が出した「Tokyo Otaku Mode」だったのです。いまでもやっかみ(笑)を兼ねて森澤本人にも伝えていることですが、これには逆立ちしても勝てない強さがありました。あの字面を見た瞬間、みんなが「あぁこれが一番いい!」と圧倒的な支持を集めてしまったのです。その後、このネーミングが世界に広まっていく様子は私自身も間近に見ていました。

——という経緯も影響したのかもしれませんが、今回の翻訳サービスは「海外」「オタクジャンル」「楽しさ」などを表現したいことから逆算して考えると、どうしても「Tokyo Otaku Mode」にあやかったネーミングが一定のアドバンテージがあるだろうし、ファンから翻訳者を集めるときにも安心感/ブランドが伝わるだろうという目論見もありました。アイディア出しから決定まで約2ヶ月間、各人でアイディアを考えながら、「Tokyo Honyaku Quest」というサービス名に行き着いたのです。

サービス名を確定させる前に「 .com」ドメインが空いているかも要チェックポイントです。今回の場合は、特徴のあるネーミングになっていましたので以下ふたつのドメインが空いていましたので、早速ドメイン名を取得しました。

tokyohonyakuquest.com
honyakuquest.com


用語を決める

サービス内で使う用語はプロジェクトメンバーはもちろん、サービスを利用するユーザーにも統一した呼び名になるよう用語の定義が大事になってきます。「ホンヤククエスト」においては、構想段階で「翻訳者」「校正者」と呼んでいた翻訳する人たちの名称は、固い表現から「トランスレイター」「ブラッシュアッパー」などの柔らかい表現にアップデートされていきます。翻訳の依頼主からの翻訳依頼を「クエスト」、採用可否を「ジャッジ」と呼んだりと、用語を定義することによって世界観が彩られていきます。

例えば、翻訳を依頼することを「案件依頼」と呼ぶか「クエスト依頼」と呼ぶかで、同じ内容を指していても、それが楽しそうと思えるかどうか、受け取る人の印象が違うことが分かると思います。いわば用語は文字のデザインともいえ、サービスが与える印象を決める要素のひとつといえるのです。

<おもな用語>

翻訳者・・・トランスレイター
校正者・・・ブラッシュアッパー
翻訳案件・・・クエスト
翻訳・・・トランスレイト
校正・・・ブラッシュアップ
翻訳者確認・・・チェック
依頼主確認・・・ジャッジ
称号・・・レジェンド、四天王、十傑
独自トークン・・・HON(ホン)


決起会を行う

2019年4月、以前から行いたかった決起会という名の飲み会を行きつけの渋谷・わたら瀬で開催。「あした葉」という独特の味がする葉っぱが食べられる渋い雰囲気のお店です。イードからは土本さん&江崎さん、bitFlyerからは三瀬さん&市園さん、TOMからは大迫&安宅の計6名で『ドキッ!男性だらけの(略』を開催。話はなぜか「クリケット」がホットトピックとして、世界最速160kmで投げるピッチャーがいるとか、インド市場が伸びてくるので海外向けにクリケット漫画を本気で作ったほうがいいとか、他愛もない話が繰り広げられ。土本さんが次の日に健康診断にもかかわらず呑兵衛の大迫と日本酒一騎打ちが始まったり、和気あいあいとした雰囲気で歓談。それまでお互いにZoom越しでしか顔を見たことがなかったメンバー同士もいる中、一気に打ち解けられた会になりました。

ややタイミングが遅くなってしまったキックオフ飲み会ですが、お互いに人となりを知れたことで距離感が近づいて、変な遠慮もなくなり、そのあとの進行がよりスムーズになったのでした。

■ 構想を具体化するサービス設計編

エコサイクルを設計する

「ホンヤククエスト」は、ブロックチェーン業界の用語でいう「トークンエコノミー(コミュニティの中で一種の経済システムが確立されていること)」の事例の成立も兼ねたプロジェクトです。

そこで、「ホンヤククエスト」でもサービスが成長していくためのインセンティブ設計=トークンエコノミーを図式化してみたのがこちらです。bitFlyer三瀬さんが作成されました。



このインセンティブのハブとなる存在が独自トークン「HON」であり、「HON」の報酬設計こそ、このサービスのキモと言えます。三瀬さんと市園さんが下記のシナリオ別のチャートを作り、あらゆるパターンで矛盾がでないように設計することができました。


こうした具体的な仕様に落とし込まれ、「ホンヤククエスト」の開発を進めていきました。


サイトマップをつくる

「ホンヤククエスト」は、ウェブサイト上で依頼主が翻訳案件を登録し、複数の翻訳者が翻訳や校正を行い、最後に依頼主が翻訳内容をジャッジして、案件が成立すると「HON」というサイト内の報酬がもらえる仕組みになっています。これらの一連のステップをウェブサイト上で実現するための設計をすることになります。そのためにどんな画面があり、その画面で何ができるかを示すものが、サイトマップになります。

2019年3月、ウェブサイト構築歴20年のベテランのディレクター大迫によってパパッとタタキが完成、必要な機能やページから全体構成を割り出し、いくつかの修正を加えてFixさせました。


仕様を決めてワイヤーフレームをつくる

同時進行で、サービスの仕様やデザインの骨組みであるワイヤーフレームを作成していきます。私が書いた構想(ポエム)から一段ブレイクダウンした整理整頓のための資料制作を、三瀬さんと市園さんが積極的に進めてくださいました。「ブロックチェーンの仕様決めに必要ですから当然です!(キリッ」と答えてくださったとき、”情熱が溢れて素晴らしい方たちだなぁ”と感じたのをはっきり覚えています。



そして、これらの資料をもとに、大迫が企画書とサイトの仕様や機能を言語化・明示化するための骨組み=ワイヤーフレームを作成していきます。





企画書兼ワイヤーフレームの資料は全体で40ページのボリュームとなり、各社からのフィードバックを反映し確認後またフィードバック……を繰り返しながら資料をブラッシュアップし、内容の精緻化を図りました。また、通常の週1回の定例ミーティングとは別に、直接数回集まって集中ミーティングを行い、細かな部分まで固めていきました。

ちなみに、「ホンヤククエスト」で翻訳するトランスレイターは英語圏、依頼主は日本語圏を想定しているため、サイトでも日英の両方テキストを用意しました。英訳はTOMの翻訳チームのケイティと台湾出身の起業家ポユさんが担当しました。


開発仕様を決める

機能的な仕様が固まってくると、具体的な開発の仕様も決められる段階になります。「ホンヤククエスト」では、ウェブサービス的な要素の裏側にブロックチェーン技術を活用しているので、開発の仕様はブロックチェーンの特徴を把握しながら、フロント側の仕様を決めていく必要がありました。

国内最大手の取引所として知名度も抜群のbitFlyerですが、独自のブロックチェーン技術「miyabi」の存在はそれほど知られていないかもしれません。bitFlyerを創業された加納さんが、グループ会社としてbitFlyer Blockchainという会社を設立して社長に就任、ブロックチェーン技術の他業界との活用事例を生み出していく本気度を感じます。直近では住友商事との提携が話題となり、「miyabi」を使って不動産業界xブロックチェーンの領域で革新的なユーザー体験をもたらすプロジェクトが進行しています。

今回、「ホンヤククエスト」のプロジェクトでも「miyabi」を活用して、ブロックチェーン技術でこそ実現させたいものがありました。そのもっとも大きい活用方法は、「ファンの翻訳に対してオフィシャルとしてのお墨付きを与えられる」ことです。経済産業省の支援制度「J-LOD」に提出した資料に詳しく書かれていますが、ブロックチェーンで改ざんされずに記録されていき、翻訳者自身も誰に対しても自身が翻訳したことを正当に主張できる仕組みであることが、将来的にとても価値があり、意義があることだと感じるのです。



「ホンヤククエスト」がちゃんとワークすると、誰が何を翻訳したかがブロックチェーン上に記録され、誰でも参照が可能になります。それが蓄積されていくと、翻訳者のキャリア形成に大きなメリットをもたらすと考えられます。

表側の機能面が固まってくると同時に、ブロックチェーン側の仕様も市園さんを中心に設計がこんな資料とともに固まっていきます。



世界観を設計する

脚本家がキャラクターの性格や生い立ちを決めていくと、キャラクター同士が勝手に話し出す、という話をよく聞きます。私はクリエイティブな能力はほとんどないため、そういった話は遠巻きに「そういうものかな」とずっと思っていたのですが、これに近い現象が「ホンヤククエスト」では、サービス名が決まった段階から起こりだしたのです。きっとこのサービス名からさまざまな想像が膨らんでいった結果なのだと思います。

その最たるものは、「ホンヤククエスト」の世界の成り立ちがディレクター大迫の”遊び心”によって、いつのまにかできあがっていたところです。企画書兼ワイヤーフレームの冒頭、こんな設定が盛り込まれているのです。定例ミーティングでの各社の反応はポジティブで「楽しげでいいじゃん!」でした。


これでサービス全体の世界観が決まり、デザインやロゴの方向性が決まったといっても過言ではないくらい、良い影響を与えました。いま振り返れば、初期はエンタメに特化しファンのための翻訳サービスとして進めるなら、逆に最初からこういう発想がでないほうが不思議でしょう、とさえ思うのですが、生真面目に進めていくとこういうことが盲点になったりするものなんですよね。

というわけで、世界観の一部の設定をここで公開してみると、

世界/国名:
トルケニスタ・・・この世界
ウィンタニア王国・・・舞台となる北方の王国
キャラクター:
フォンゴーニ14世・・・現在の王、民に慕われる気さくな国王。ちょっと抜けてて”爺”によく怒られる。
ボルトン(爺)・・・財務官、王が小さな頃から仕えてきた。王より年上だが実はそんなに変わらない年齢。少しボケてきているが、まだ若いモンには負けんと、密かに闘志を燃やしている。
ビービー・・・通信係、読書や空想を好み、物静か。運動苦手、ドジっ子。

メール文面(一部):
「●●●よ、ウィンタニア王国の財務官ボルトンじゃ。
お主が手がけた「[記事タイトル]」を依頼主がお選びになった。
ここに報酬を進呈する、おめでとう!
http://xxxx.ooo
世界が分断されてからというもの、人々の交流はほとんどなくなってしまった。
お主はこの世界トルケニスタをつなぐ希望じゃ、、国王はもちろんこの爺も期待しておる。
ありがとう、これからも頼むぞ。」

もともとは味気なかったシステムメッセージも、こうしたキャラクターが「話す」ことで世界に息づき、「楽しみながら翻訳ができるサービス」に一歩近づいた気がします。


フックモデルを設計する

新しいプロジェクトを進める役得として、既存のプロジェクトでは挑戦しづらい新しい手法・進め方・フレームワークなどを導入しやすいということがあると思います。

私が大好きな「yenta」というビジネスマッチングのアプリがあります。この事業を率いているのが岡さんという方で、アプリがリリースされた当初に連絡して(「素晴らしいサービスなので連絡しちゃいました!」的なノリです。は、恥ずかしい)、以前からやりとりをさせていただいていました。もうひとり、500startupsの先輩で「決算が読めるようになるノート」のシバタナオキさんが久しぶりに日本に来るということで、toC向けのサービスでイケてる人を紹介する話があり、お二人を繋いだのです。当日、私は同席できなかったのですが、あとからシバタナオキさんに聞いたところ、岡さんから聞いた「yentaはフックモデルに素直に従って作った」という話に感銘を受けたとのことで、「ホンヤククエスト」など新しいプロジェクトに活かせるかもということで、周回遅れではありつつも、私もとても気になって書籍を読んでみたのでした。

「フックモデル」の内容はぜひ書籍「Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール」を読んでいただくとして、質問・回答をしていくことでフックモデルをどうつくり出せるかを洗い出せるので、実際に3社で回答に答えてみたのです。その一部を紹介します。


この質問・回答によってとてもクリアに機能や見た目のイメージが整理されたので、こちらも記しておきます。今回のサービスにおいて、翻訳者が翻訳することを習慣化できると嬉しく思います。


■ 設計をカタチにする制作&開発編

スケジュールを切る

今回のプロジェクトは、ブロックチェーンをかけ合わせた点や翻訳フローをサイト上で完全に再現する点、また報酬設計の点などにおいて、これまでなかったサービスであったため、検討に時間をかけようと思えば、ある意味無限に時間を使えてしまう状況でした。構想(ポエム)段階では2019年4月あたりに実証実験ができると良いよね、という希望的観測に基づくざっくりしたスケジュールの目安を書いていましたが、具体的に検討を始めていくと各社かけられるリソース状況なども見えてきて、現実的なローンチ予定日が決まっていきました。

こちらを元に、定例ミーティングなどでややストレッチしたスケジュールのおしりを決めつつ、bitFlyer市園さんにビジュアルに落とし込んでもらったガントチャートになります。

定例のペースにあわせ、週単位で各社がその週どんなタスクをこなしているべきかが俯瞰して見られ、大海原を航海するときの北極星のような役割を果たしてくれています(まだこの瞬間もパイロット版のローンチに向けて各社進行中です)。


ロゴを制作し商標を申請する

ロゴの制作もサービスにおける世界観を決定づけるものですので、重要かつサービスが成功すればするほど重要度が増していきます。ブランディング観点で、もっとも時間とコストをかけて取り組むべきことのひとつでしょう。

ありがたいことに定例ミーティングの中でみなさんから、せっかくなので、TOMのロゴを制作してくれたCCOの森澤に今回のロゴ制作も依頼したいという声があがり、承った次第です。サービス名を決める時に出てきたコンセプトと、今回あやかるTOMのロゴの並びもベースに、ゲームの世界を意識したエンタメ感満載のロゴが完成します。また、世界観をよりダイレクトに示すために、ゲームの中を表現するドット絵の世界地図を、著名なドット絵クリエイターのBAN-8KUさんに制作を依頼しました。BAN-8KUさんはTokyo Game Showで毎年恒例の「Game(L)over」というナイスなコピーの入ったドット絵TシャツをこれまたCCO森澤と一緒に作っていただいていることもあり、今回も自然な流れで作っていただくことになりました。長年培われた信頼関係は本当に大切にしていきたいものですね。

ロゴが完成するとあわせて商標も申請しています。

また、このロゴの世界観にあわせて、BAN-8KUさんがドット絵のイラストを制作していきました。コミカルでとても親近感がわくイラストに仕上がったと思います。

デザインをつくる

ロゴができ、ワイヤーフレームがFixしたら、いよいよサイトデザインに取りかかれます。今回は、エンタメ系デザインで非常にクオリティの高いアウトプットを出し続ける元Gatebox(ホログラムの二次元の嫁と暮らせるアレ)でクリエイティブ担当をされ、現フーモアにいらっしゃる佐々木さんチームに2019年5月に依頼をさせていただきました。

今回やや特殊だったのは、世界観を分かりやすく伝えるデザインを考えると、どうしてもキャラクターやオブジェクトや背景画像をドット絵で制作するほうがベストであったため、デザインとは別にドット絵イラストをBAN-8KUさんが並行して作業されるという点です。2ラインの制作が同時進行で進んでいったことで、コミュニケーションの難易度が少し高かったと思いますが、大きなトラブルもなく進行していきました。


ページボリュームが多かったこと、またクオリティ優先で進行してもらったこともありスケジュールは多少押しましたが、フリーランスで活躍するOTONARI社の柾本さんが助っ人に入っていただきつつ、そんな時の常套手段=「五月雨方式」で仕上がった箇所から随時確認・修正・組み込みなどを行っていきました(進行管理力次第でここは常に五月雨方式で進められるとスピード感が上がって良いですね)。


紹介動画をつくる

今回のサービスには、ファンがコンテンツを翻訳するときに、仕事ではなく遊びの延長のような感覚で、楽しみながら翻訳依頼=クエストをこなしていってほしいという想いが込められており、それはロゴやサービス名、デザインや世界観にも反映されています。そして、そんなコンセプトをもっとも正確にファンに伝えることができるのは60秒ほどの短い「紹介動画」であると位置づけました。

そこで、ロゴや世界観をあらわすドット絵をBAN-8KUさん作っていただいている流れで、TOMのクリエイティブのCCO森澤、そして同チームに所属する竹森のディレクションの元、いつもお世話になっている映像ディレクターの稲垣さんに「紹介動画」の制作をしてもらうことにしました。

「どんなサービスになるか」「何を伝えたいか」「どこで使う動画なのか」など適切な動画を制作するための情報整理を元に下記の絵コンテを作成してもらいました。サイトデザインと映像のトンマナを合わせるため、多くの素材をサイトのデザインデータから流用して制作しています。


完成した動画がこちらです。今回はサイトのトップページでPCやスマホでも見られるようにすること。また、日本国内向けには翻訳の依頼主にもアピールしたいこと、海外向けには翻訳に興味を持つファンにリーチさせたいことなどから、日本語と英語で別々の動画を用意しました。さらに海外の場合、ネット回線が重い可能性もあり、動画が荒くならないギリギリのラインでの動画サイズの圧縮なども微妙に調整してようやく完成に至りました。

というわけで、いろいろな人たちが力を出し合った動画をぜひご覧ください。



開発を進める

フロントサイドの開発はイード社(ならびに関係会社のBENITEN社)が担当しており、PMの佐藤さんが窓口として開発全般を取り仕切ってくださっています。ブロックチェーンの開発はbitFlyerが「miyabi」を動かすための各APIを開発し、フロントサイドからAPIをコールして、ブロックチェーンを動かして連携をしていくイメージです。

bitFlyerのエンジニア小林さんや渡会さんによってこうした仕様書が作られ、機能ごとに10個以上のAPIがつくられていきました。

開発は基本、黒い画面とにらめっこの世界ですので、なかなかビジュアルで紹介しづらいものですが、例えば、フロントサイドとシステムの組み込みではこうしたコミュニケーションを通じて、双方の結合を図っていきます。

そして、いよいよステージング環境でサイトを動かせるようになったら、非エンジニアも混ざって受け入れテスト(UAT)を開始します。Googleスプレッドシートでバグや気づいた点を全体で共有しながらブラッシュアップとフィードバックを繰り返していきます。

これらのステータスがすべて「完了」になったとき、パイロット版は無事に船出となるのです。


プライバシーポリシーと利用規約をつくる

サービスの中でも、ウェブやアプリサービスの領域においては、プライバシーポリシーと利用規約の掲載が必須となります。「ホンヤククエスト」が少しややこしいのは、複数社の協業サービスであること、日本語圏・英語圏が対象であること、(仮想通貨ではないが少し紛らわしい)独自トークンが存在すること、ブロックチェーン技術が用いられていること、上場もされ一定規模の組織同士、などがあり、論点が多く確認にタイムラグがでるため、一定時間がかかる見込みがありました。

TOMの法務・住吉に以下の内容を伝え、口頭でも補足しながら、

  1. サービスの概要(プレスリリース予定の内容)
  2. 参考になる資料(今回はTOMの関連サービスから参考にしました)
  3. 留意点(実証実験、座組、独自トークンがあることなど)

比較的早い段階からタタキを作り出し、段階ごとに各社(の法務)への確認をしつつ、Word上の提案モードで3〜4回ほどの修正・調整などを行い、内容のFixに向かいました。


■ 世の中に売り出すマーケティング編

キャッチコピーを決める

いまの世の中はサービスが溢れてしまっていて、新しく何かが生まれたとしても、一瞬でそのサービスが「自分にとって役立つのか」が理解されないと、なかなか世の中に浸透していくことが難しい時代になってきたと感じます。

そのサービスをあらわす一言=キャッチコピーが100点満点だったら、100%の理解度で対象となる人々に伝わり、もし、そのキャッチコピー50点だとしたら、50%でしか伝わらないので、浸透率が大きく変わってきてしまうというようなイメージです。

そんな前提で出てきた候補が下記になりまして、

アニメファンが公式アニメ記事を翻訳
みんなの「Tokyo Honyaku Quest」実験中

翻訳クラウドゲーム「Tokyo Honyaku Quest」実験中
アニメファンが公式アニメニュースを翻訳、みんなでクエストをクリアしよう

キミの翻訳を世界に届けよう!
アニメファンのための「Tokyo Honyaku Quest」

上から「公式感や実験感を強調」、「ゲーム性やエンタメ感を強調」、「自分の翻訳が世界に広まるワクワク感を強調」で、どれが正解でどれが不正解というわけではないのですが、私たちは、翻訳者が主役でありグローバルな世界が舞台であることも伝わる、3番目の案を採用したのでした。

ここで決めたキャッチコピーはサイトのトップページで掲載されています。




初期ユーザーを集める

「ホンヤククエスト」のサービスにおいてもっとも重要な登場人物といっていいのが、コンテンツを翻訳してくれるトランスレイターたちです。英語ネイティブで日本語も読める一定の翻訳スキルを持ったを方たちをいかに集められるか、最善手はTOMのFacebookページを活用することでした。

TOMのFBは北米・英語圏中心に2,000万人の「いいね」がついており、オタク文化を愛してやまない人たちが見てくれている媒体です。黎明期からTOMのFacebookページを育ててきたファンと、翻訳者とのコミュニケーションを香港出身でバレーボールの元香港代表選手だったタンが共同で担当し、「日本語のクイズ」をテーマに投稿し、Facebookグループへ誘導していきます。日本人から見ると何の変哲もない内容に見えますが、アニメ好きで日本語に興味津々なファンにはウケるという一例です。


2019年8月現在、1,200名を超える候補者が集まり、候補者には下記のようにGoogleフォームを活用した30分のガチの翻訳テストを行ってもらいパイロット版参加の条件としました。結果25名のファンたちがパイロット版で活躍してもらうことになっています。また、タンが率先して各人と1人1人面談を行っています(たまたま東京に住んでいた方もいてランチもご一緒したことも)。


ちなみに、「ホンヤククエスト」では、ハイレベルな人だけに限定して翻訳するよりも、もっと幅広いファンに気軽に翻訳に参加してほしいと考えていて、実証実験を終えたら、翻訳スキルによる参加条件を徐々に緩和していく予定です。


カスタマーサポートとツールを導入する

あらゆるサービスにはお客様=カスタマーがいます。カスタマーからのお問い合わせには単に回答するだけのでなく、コミュニケーションをとることでサービスの方向性、次に実装すべき機能の優先度を絶えず調整していくための情報を得ることができます。

ただ、メール、お問合せフォーム、Facebook・Twitterのような各種SNSなど、カスタマーとのタッチポイントが複数になると、誰がどのお問い合わせに対応していて、いまどんなステータスなのかが煩雑になり、カスタマーサポートをスムーズに回すのがだんだんと難しくなっていきます。

そこでおすすめしたいのがZendeskです。さまざまなタッチポイントを1箇所にまとめ、1件のお問い合わせを1つのチケットにして、担当者と現在のステータスがひと目で分かるようになるので、毎日一定数以上のお問い合わせにミスなく対応するならマストなツールといえます。

「問い合わせが来て一回目に返信するまでの平均時間」がわかったり、「(設定すると)問い合わせ対応のやりとりの満足度を図れる」など、かゆいところに手が届く仕様になっていて、カスタマーサポート自体のPDCAサイクルを回せるようになっている点もポイントが高いです。また、ヘルプセンターといって、「よくある質問」をWiki形式でエンジニアでなくても内容のアップデートも行えるので、同じような問い合わせはカスタマーの自己解決を行ってもらえるようにも誘導ができます。あとはなんといっても(プランによりますが)費用が1アカウント月5ドルと格安なので、オススメ中のオススメです!


プレスリリースを打ちイベントを開催する

サービスを作っていて、もっともドキドキする瞬間はプレスリリースやイベントでのお披露目のときではないでしょうか。あるサービスが世の中に出てくるまでには、裏側ではたいてい多くの人や、思わぬたくさんのタスクがバタバタと展開されていて、世の中にお披露目されたときの反響や評判で苦労が報われたり(報われなかったり)するものです。

2019年7月12日、「ホンヤククエスト」の実証実験の開始をPR TIMESを通じてプレスリリースしました。ありがたいことに、30媒体近くのメディアで取り上げられました。TOMのコーポレートサイトにも掲載しています。

土本さん・三瀬さんをはじめ、3社の広報にもサポートいただきました。bitFlyerは金光さん、TOMからは創業メンバーでコーポレートオフィサーの秋山が担当しました。

今回この記事を書いている理由のひとつにもなっていることですが、本来サービスの裏舞台というのはスポットが当たらず、利用者やクライアントに近いポジションを担っているプロデューサーやマーケティングやSNS運用や営業や広報といった役割の人だけが注目されがちです。しかしながら、ここまで書いてきたように、デザイナーやエンジニア、それをとりまとめるPMやディレクター、連携する企業をまとめるための契約書をつくる法務・経理・総務をはじめとしたバックオフィスのメンバーなど、さまざまな役割の方の支えがあって、こうしたサービスが世の中に出てくるのです。

2019年7月18日、bitFlyer Blockchain、イード、TOMの3社の代表が集まり、記者会見イベント(厳密にはbitFlyer Blockchainの不動産関連の提携発表の別パートでのお披露目)を行いました。写真の奥に記者会見でよくある各社のロゴが掲載されたパネルボードがあると思いますが、資料作りに加えてこちらの画を撮るために、bitFlyerの三瀬さんたちが徹夜されて組み立てられたと聞いています。こうしたひとつひとつの頑張りは普段注目されることはないですが、まさに今回の記事を通して、「たしかにこういうパネルボードも勝手にできあがるわけではないよな」と裏方にも思いを馳せてもらえたら嬉しく思います。

“賊軍”の彼らを“官軍”にしたい――世界中のファンがアニメ記事を翻訳する「Tokyo Honyaku Quest」の意義


検証項目を設計する

ウェブサービスは、ありとあらゆる数値がログとして取得できて、分析できるところが面白いところでしょう。独自に開発実装しなければ取りづらいデータもありますが、ほとんどの場合、Google Analyticsなどの無料ツールで取りたい数値が取得可能です。

「ホンヤククエスト」でも、検証項目を出して、それぞれにデータを取得&分析ができるように設定しました(念のため申し上げると、個人を特定するような情報をとっているわけではありません。個人情報のプライバシーは遵守しています)。

これらの検証項目を毎日・毎週・月単位で数値を追ったりグラフで遷移を出していくと、どれくらいサービスが成長しているのかがひとめで分かり、目標に対しての達成度なども図れるようになります。

今回は、実証実験時に最低これくらいの数値を達成できない場合は、撤退もやむなしというデッドラインも設けて本気で取り組んでいます。結果は神のみぞ知るですが、やるからには全力でやりきろうという気持ちで、いままさにこのプロジェクトを進めている真っ最中です!

以上、新しいサービスはどう作られているか、その舞台裏をなるべく限界まで公開してきました。プロジェクトの開始からパイロット版サイトの完成まで、追体験できていたとしたらとても嬉しいです。
実証実験の検証は2019年内いっぱいを予定しています。2020年には、翻訳の依頼主、そして翻訳をしたいファンを拡張させていく予定です。こちらの記事をご覧になったみなさまや、みなさまの周りに、「私もホンヤククエストで翻訳してみたい」「ちょうど翻訳の発注をしたいと思っていたので依頼主になってあげるよ」という方がいたら、ぜひお気軽にご相談ください。最初は日英翻訳のみとなりますが、コンテンツの対象は、アニメ・マンガ・ゲーム・ラノベといったオタク系コンテンツ、アニメの公式Twitter、Vtuberなど幅広く受け付けておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。ここまで長々とお付き合いいただきありがとうございます。

お問い合わせはカスタマーサポートまでお気軽にどうぞ!

cs@honyakuquest.com


<番外編>

ここからは、本文では書ききれなかった内容が盛りだくさんのおまけパートとなります。よろしければこちらもお楽しみください。


はじまりの話

いま考えると、「ホンヤククエスト」のはじまりはイード宮川社長との出会いからでした。TOMを創業する前に私が開発・運営していたサービスを事業売却させていただいたのがキッカケで、年に数回食事をさせていただいていました。

その後、「アニメ!アニメ!」の編集部の方たちとも交流を持ち、TOMがブロックチェーンを活用するコミュニティ通貨『オタクコイン』という構想を起案し、業界団体としてオタクコイン協会(当時は準備委員会)を組成した2017年末に、宮川社長から事業統括責任者の土本さんを紹介いただきました。

一方、bitFlyerとは、ブロックチェーン開発者の落合庸介さんからのご紹介で、2018年6月にカナゴールドという呼称で知られる現・BUIDL橋本さんとの打ち合わせをさせていただき、そこに同席されていたバリミッシュこと元・銀行マンの三瀬さんと出会いした。その後、三瀬さんと親交が深まり、2018年10月に食事をしている中、今回のプロジェクトの原型のようなものができあがっていきます。

  1. ファンの力で日本のコンテンツを翻訳する

  2. ブロックチェーンを活用して翻訳者としてのキャリア形成をサポートする

  3. トークンエコノミーの世界の実現=ファンだからこそ円やドルといったお金ではない報酬が成立する世界を作りたい

アイディアが出てきた段階で、これはおそらくイードの土本さんにも協力してもらうといいかもしれないと思い、すぐにお声がけしました。そうしたのにはいくつか理由がありますが、①土本さんやイードがブロックチェーンxメディアのトライに積極的であること、②運営メディアの海外展開が念願であったこと、③そして私が密かに土本さんの才気に惚れ込んでいたこと(あ、これは本人にも伝えてないですし、いま初めて言ったのでラブレターみたいで恥ずかしい)、などが理由です。

土本さんはゲームファンなら知る人も多い「インサイド」というゲームメディアを学生時代に個人でゼロから立ち上げ、大きなメディアへ育てた実績もさることながら、かつ他のあらゆるメディアでのグロースも経験をされてきている方で、コンシューマー向けのサービスの立ち上げからグロースまでのノウハウはこのプロジェクトの成功に欠かせないと考えたのです。


もうひとつのチャレンジ

ここまであまり触れてきませんでしたが、このプロジェクトのもうひとつのチャレンジングな取り組みが「アニメ!アニメ!」の英語版「Anime Anime Global」の同時展開です。「ホンヤククエスト」の実証実験で翻訳される対象のテキストは「アニメ!アニメ!」日本語版の日本語記事で、1日約20本(各記事平均600文字前後)をアニメファンのトランスレイターたちが翻訳していく仕組みです。ここで翻訳された英語のニュース記事は、依頼主でもあるイードが「採用(ジャッジ)」すると、そのまま英語版「Anime Anime Global」へと掲載されるため、いわばアニメファンがアニメファンのためにアニメ関連のニュースを一緒につくるという、まさにコミュニティの力で新しい形のメディアができあがるはずです。

自分が翻訳した記事か正規のニュースとしてメディアに掲載されることになるため、翻訳者のモチベーションをさらに高めることができると考えています。

「ホンヤククエスト」によって、日本のアニメが大好きなファンによって、気軽に「正規コンテンツ」を翻訳でき、その翻訳の成果を英語圏向けに新しく作られるアニメニュースサイト「Anime Anime Global」にブロックチェーンで自分の名前が刻まれます。違法な海賊版でさえファンの熱量によってあらゆるコンテンツが翻訳されている状況の中、この仕組みがワークしたら最高に熱いと思っています。


補助金制度を活用する

プロジェクトを進めていると時折思ってもみない幸運に出会うことがあります。通称:J-LOD(読み:ジェイロッド、Japan content LOcalization and Distributionの略)の採択もそんな幸運のひとつだったと思います。J-LODとは、日本の経済産業省が実施する『コンテンツグローバル需要創出等促進事業費補助金』のことで、かんたんにいうと、日本から海外にコンテンツを広めてくれる企業に補助金が出ますよ、という制度です。

以前はJ-LOPという名称で、TOMもフランス最大のオタクイベントのJapan Expoへ出展時に採択されて活用していました。

2019年はJ-LODの対象プロジェクトが突然ブロックチェーン開発にも広がってくれたため、我らが「ホンヤククエスト」も採択される可能性があるのでは?ということで、bitFlyer三瀬さんがいち早く動いて、申請&採択をされる運びとなったのです。

ちなみに、補助金を受けられるメリットはありつつも、国の税金を活用させていただくわけですので、どんな事業やサービスにどんな風にブロックチェーンを活用してどのように海外へコンテンツを広めていくのかを判断いただくための資料作りには一定の時間がかかります。三瀬さんが作成された一部(タタキ段階)を紹介したいと思います。


これらは申請書類の一部で、まあまあな分量の説明資料の提出が求められるのと、申請後も定期的なレポーティングややりとりが発生しますので、制度を活用する際は一定の規模感以上でないとデスクワークに見合わない可能性もあります。私は申請して300万円以上の補助金が見込める時には前向きに検討したほうがいいと考えています。参考になれば幸いです。


社内向け説明資料をつくる

一定規模の組織になってくると、セクションや役割で持ち場が定まってくるので、TOMでも社内で大小含めると100以上の施策や企画が同時進行で動き出したりして、誰が何をやっているか、「見出し」は把握していても、内容の詳細まではなかなか伝わらなくなってきます。また、一見すると理解しづらい難しそうなプロジェクトは「なんであれをやっているんだろう」という素朴な疑問を誰もが持つものであり、それぞれ各社内との連携を進める上では、いわゆる「社内向け説明」というのは欠かせません。

とくに、「このプロジェクトを進めるとどんなメリットがあるのか」「(自分含め)自チームやセクションにどんな影響があるのか」など、組織体制が整っていればいるほど、予定されている計画への影響度をあらかじめ把握して、予定に組み込むようなチーム内調整も必要です。早め早めの共有が、結果として大きなサポートとなって担当を超えたレベルの協力体制でプロジェクトを支援していくことが実現されます。今回TOM社内向けに作ったレポートをチラ見せしちゃいます。


(図の引用:SHIFT:イノベーションの作法

ドキュメントワークというのは一定の工数がかかりますが、社内外を巻き込み、より大きなプロジェクトと昇華させていくステップとして欠かせない工程だと感じます。また、プロジェクトをファン向け、クライアント向け、協業先向け、社内向けとさまざまなアングルから視点を変えて見てみることで、新しい方向性の発見や必要な機能が見つかったり、プラスに働くことも多いと感じています。説明資料の中で引用しているSHIFT:イノベーションの作法にも出てくる「インターナルマーケティング」の重要性は、組織が大きくなっていくほど社内リソースのレバレッジをかける上で大変有意義なのだと思う次第です。


ビジネススキームを固める

「ホンヤククエスト」のプロジェクトは最初、手応えを掴むために短期間の実証実験からはじめ、依頼主やファンのニーズやウォンツを確かめながら、次ステップへ進むかどうかの判断を都度都度していく、というようなリスクヘッジをしながら進める方法を取っています。仕様が固まりデザインやサービスができてきて、TOMのFacebookページなどを通じて翻訳者候補者が一定の人数が集まることが分かってきており、また、ありがたいことにまだパイロット版すらローンチしていないにも関わらず、翻訳を依頼してみたいという依頼主候補も複数出てきており、プロジェクトメンバーもより一段自信が深まってきているところです。

まだ気が早いとは思いつつ、2019年内で実証実験を完了したあと、2020年からは本番稼働を狙っていくとしたら、本番後のビジネススキームをもうすこし具体的に決めていく必要がありました。3社の協業であることもあり、売上や収益の配分によっては採算があわないケースもありえますし、どの会社がどの役割を担うのかなども重要な論点になります。

実はまだこちらは現在進行系で交渉中の内容になりますが、こちらをベースに要点を整理してディスカッションを行っていっています。レベニューシェアや撤退などの生々しい情報も盛り込んだ資料を公開してみたいと思います。


番外編は以上です。


おわりに

最後に、どのような経緯で「ホンヤククエスト」が生まれてきたのかを紹介したいと思います。

日本のオタク文化は世界中からとても注目されていて、世界各地に熱烈なファンがいます。どれくらいの人気があるかというと、海外の国ごとに数万人から数十万人規模のオタクイベントが毎年行われるくらい人気になっています。USでもっとも多く集まるAnime Expoは4日間で約10,000円の有料イベントで2018年、2019年と2年連続で35万人の来場、ほぼすべて日本のオタク系コンテンツの展示です。写真はAnime Expo2018の開場前の様子です。

ここまでの熱量で溢れていても、コンテンツや関連情報が完全に世界中に行き渡っているかと言うとそうではありません。いまはまだ日本語と世界各国の言語の間に深い溝があり、そこを越えようとしてもうまく越せない「言語の壁」というボトルネックがあるのです。

オタク文化の中心になるのがコンテンツ=作品であるからこそ、中身がわからなければ伝わらず、伝わらなければ作品を楽しむことができません。収益性が見込めるトップ作品は正規版として翻訳され海外に流通していますが、それはピラミッド図でいう上層の話です。「オタク文化を広げる」という大きな枠組みで考えると、ビジネスになる作品だけが翻訳対象というのも世知辛いものです。気軽にできない「翻訳」が日本のオタク文化を世界に広げるための足かせになっているのではないか、ここを解決できれば、より幅広い人に日本のオタク文化が広がっていき、きっと明るい未来が開ける、そう確信しています。

この記事を読んで、少しでも「ホンヤククエスト」にご興味を持っていただけたら、こちらからお問い合わせください。長々とお付き合いいただきまして本当にありがとうございます。

「翻訳を依頼したい」「トランスレイターになりたい」などお気軽にご相談ください。

cs@honyakuquest.com

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