スタートアップで働くディレクターが最も重視する記号
こんにちは。Tokyo Otaku Mode ディレクターの青芝です。
Tokyo Otaku Mode のようなスタートアップは、急成長していくことを求められます。そのため、状況に合わせてチーム編成や自分の役割が変化することも多く、特にディレクターという立場ではそれが顕著になります。
一言にディレクターと言っても仕事内容は様々で、それこそ企業の数だけ働き方が存在すると言っても過言ではありません。私は、Webデザイナーを3年間経験した後、Webディレクターに転身し、今年で6年目を向かえようとしています。今回は、ディレクターという職業を経験していく中で、今までに身につけて来た知識の中から、最も役に立った考え方を紹介しましょう。
この記号が思考の基礎となる
「近代言語学の父」と言われるフェルディナン・ド・ソシュールという人物をご存知でしょうか?この記号は、ソシュールが提唱した「シニフィアンとシニフィエ」という概念を説明する際に登場するものです。この記号自体に意味はなく、一つの考え方の体系が記号化されたものだとイメージしてください。
私たち人間は、特別な能力として「言葉」を用いることができます。その言葉に着目して深く研究することが言語学であり、現代の言語学に大きな影響を与えた人物がソシュールです。
前置きはこれくらいにしましょう。
言葉とは情報です。そして、ディレクターの仕事というのは、日々大量の情報をさばいていくことにあります。それは、プロジェクトのクライアントからの要望かもしれませんし、自社サービスの機能追加や改善の要望かもしれません。ディレクターは、常に期限とやるべきことの中から物事を選択し、目的達成のために行動していくことを迫られます。
上で紹介した記号は、そのような状況下で働く者にとって「思考の基礎」となります。次に、この記号がどのような働きをするかについて説明しましょう。
仕事で最も多く利用する道具は「言葉」である
言葉の存在は、あまりにも日常的にありふれた存在になっているため、普段その特性を気にすることはありません。しかし、私はここに疑問を持ちました。
——『言葉ってなんだろう?』
良く考えてみてください。仕事で最も多く利用する道具は「言葉」です。それならば、言葉の仕組みを理解することで、仕事の効率を上げることができるのではないでしょうか。
そのような経緯で、言葉について色々と調べて行った結果、「シニフィアンとシニフィエ」という概念に出会うことができました。シニフィアン(signifiant)とシニフィエ(signifié)はフランス語です。その意味と英語の綴りを以下に記載します。
- シニフィアン(英:signifier):ある物事を表すために使用する言葉の音または文字などの外観のこと
- シニフィエ(英:signified):シニフィアンによって表現されたものから連想される意味や感覚といった情報のこと
これら2つを先程の記号の中に入れてみましょう。
そして、このシニフィアンとシニフィエが対になった状態のことを、「シーニュ(仏:signe)」と呼びます。シーニュの綴りを英語で書くと「sign」となります。サイン —— そう、記号のことです。
本当の意味で言葉の仕組みを理解するということは、シニフィアンとシニフィエ、そしてシーニュの関係性を知る必要があります。例えば、上の図で示した「猫」という言葉を使いこなすには、自分がその言葉の意味を知っているだけでは不十分で、他人が「猫」という言葉をどのように認識しているかという所まで考えなければならないのです。
自分では丁寧に説明したつもりでも、相手との仕事が上手く進まない時、言葉に対する認識のズレが発生していることがあります。そんな時は、相手に合わせた言葉に切り替えて説明したり、記号を用いて自分が想定していたイメージを伝え直すことで解決を図ることができます。
ディレクターが言葉を使ってできる仕事
日本人が「Ne-Ko」という音節を聞いたり、「猫」という文字を見た時、自動的に猫という動物を連想するようになっています。しかし、猫に抱くイメージや感情は人によって異なります。多くの人は、猫のことを「人懐っこくて可愛い」と言うかも知れませんが、幼い頃に猫に引っ掻かれて怪我を負った経験のある人は、「鋭い目をした凶暴で怖い存在」と言うかも知れないからです。
更に、猫に対して同じような認識を持っていたとしても、使う言語が異なれば「Cat」のように音節や文字表現が全く違うものに変化してしまいます。これが言葉の面白い所です。シニフィアンとシニフィエは、密接に繋がっているように見えて、実はどんな組み合わせも有り得るという不思議な特性を持っています。
私は、この記号に出会って「情報は相手に伝わった時に初めて価値を持つ」と理解するようになりました。言葉は、自分が思い込んでいるだけの状態で使っていては「閉じた言葉」のままです。言葉を使って何かを伝えようとする時、「この言い回しで伝わるだろうか」「この単語は適切だろうか」「自分がこの言葉に抱いている認識は本当に正しいだろうか」と常に気を使うことで、「開かれた言葉」が使えるようになります。
ディレクターは、自分の考えを企画書や仕様書に落とし込む作業に限らず、クライアントとエンジニアの間に立って言葉の橋渡しをする役割を担います。時には、発注者が感覚で説明した言葉を解釈し、受託者が理解できる言語に変換して伝えることもあります。
例えば、「ページの表示がおかしいから早く直して」といった直感的な要望が入った場合、そのまま担当者に丸投げするのではなく、「商品ページの右下に設置されているリスト要素で表示崩れが起きています」という具合に、問題を具体化してから渡した方がスムーズに作業が進むでしょう。
また、広告担当者から「AD経由のPVは12,000で、うちUUが6,800。CVRは0.1%でした」という報告を受けた場合、それを資料に落とし込む前に「広告経由の閲覧数」「訪問者数」「購入率」のように、状況に合わせた言葉に変換してから書き込んだ方が良いでしょう。
もちろん、伝わる相手に対しては積極的に専門用語を使っていくことで、コミュニケーションの速度を上げることができます。そのように、言葉が相手の中でどう使われているのかを意識し、偏見や無駄な拘りを捨てて「伝わる」ことにフォーカスする。それがディレクターにできる仕事であると思います。
Tokyo Otaku Mode が伝えたいこと
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