Kickstarter解体新書:海外クラウドファンディング成功事例&分析レポート

こんにちは、Tokyo Otaku Mode(以下、TOM)の安宅です。

最近、Kickstarterで日本のアニメ/マンガ/ゲームのプロジェクトが増えてきています。

2015年には幻の作品となっていたゲーム、「シェンムー3」がKickstarterで約7.8億円もの支援金を集めることに成功し、業界にインパクトを与えたことは記憶に新しいと思います。

活況を呈してきている海外クラウドファンディングは、個人的にも、またTOMのミッションである、「クリエイター・エコシステムの構築」の一貫としても非常に興味があるところで、年初に社内メンバーと一緒にリサーチを行いました。リサーチを進めていく中で、クラウドファンディングがファンとクリエイター/メーカーを繋げる新しいカタチであり、大きな可能性があると肌で感じました。

日本では、個人による出資/支援や寄付の文化はまだまだ根付いていないように感じます。今後、日本にもクラウドファンディングの文化が根づいてくれると良いなという想いと、その可能性を少しでも感じられたらと、今回調べたデータや情報をすべて公開しちゃおうと思います。

非常に長文ですので、お時間あるときにじっくり読み込んでみてください。


<目次>

  1. Kickstarterの成功の肝はリワード設計。リワード徹底研究!
    5つのリワードタイプ
    特徴的なリワードの紹介
    成功させるためのリワード設計とは

  2. クラウドファンディング運用のお供に。Kickstarter便利ツール/サイトを紹介!
    Kicktraq - 支援金額進捗チャート
    クラウドファンディング最高額ランキング - Wikipediaより
    Kickstarterカテゴリ別達成金額ランキング - TOMお手製自動集計
    Backerkit - プロジェクト主催者支援神ツール
    Fulfillment from A to Z - Kickstarter公式リンク集

  3. プロジェクトを成功に導くためのノウハウ。達成事例を分析!
    あのロックマンの生みの親によるファンとの新たなる挑戦
    幻となった伝説のゲームの続編、国内史上最高支援金額7.8億円を達成した理由
    手塚治虫のローカライズプロジェクトに学ぶ継続的アプローチ
    ロケットスタートを切るために行った2つのシンプルな仕掛け
    実はブルーオーシャン?ガジェット・プロダクト系カテゴリ

  4. 個人クリエイターがプロジェクトを達成させるための秘訣
    初日で目標金額の3倍以上の支援金を調達できた3つの理由
    丁寧なアップデートとストレッチ・ゴールとリワード設計の妙
    正統派の成功パターン。ひねらずシンプルに作品力で勝負
    緻密なリワード/ストレッチ・ゴール設計に基づく成功事例
    個人クリエイターがプロジェクトを成功させるための三か条

  5. Kickstarter Statsから分析するプロジェクト失敗学
    Kickstarterの今が丸わかり?「Kickstarter Stats」とは
    カテゴリ別の成功率/失敗率は?
    失敗プロジェクトの84%はほとんど支援されていないまま終わる

  6. 知っておきたい北米クラウドファンディングの基礎知識
    北米のクラウドファンディング市場規模
    北米の購入型クラウドファンディングのプラットフォーム
    Kickstarter 対 Indiegogo

クラウドファンディングとはなんぞや?という方は、ぜひ最後のパート、「6. 知っておきたい北米クラウドファンディングの基礎知識」から読んでみてください。

また、この調査を行う中で、Googleスプレッドシートを使っていくつかの資料を作成しています。一覧にしましたのでご活用ください。


1. Kickstarterの成功の肝はリワード設計。リワード徹底研究!

クラウドファンディング自体は「バッカー(=支援者)によるプロジェクトの応援」という立て付けが大前提となりますが、やはりバッカーとしては、プロジェクトにある程度のお金を支援するからには見返りのおまけ、つまり「リワード」も欲しい、というところが実情ではないでしょうか。

このパートでは、過去の事例を振り返りながら、

  • 5つのリワードタイプ
  • 特徴的なリワードの紹介
  • 成功させるためのリワード設計とは

について書いていきます。

5つのリワードタイプ

まずリワードの種類についてですが、大きく分けて、

  1. クレジット(バッカーとして何らかの形で自分の名前が記載される)
  2. デジタルコンテンツ(ゲームやアニメなどがデジタル形式で手に入る)
  3. フォーラム(バッカーのみのフォーラムへの参加権利など)
  4. プロダクト(DVDやBlu-ray、アートブックなどの物理的にリアルな特典)
  5. プレミアムオプション(直筆サインなど付加価値として高単価リワードに結びつくもの)

に分類されます。詳細をまとめてみました。

50ドル以下の低価格なリワードでは、物理的な制作費や輸送費などがかからないクレジットやデジタルコンテンツ、フォーラムの参加権などが主流です。50ドルを超えるとリアルなプロダクトがつき始め、アートブックやTシャツなどのオプションが追加されていきます。300〜500ドルの高価格帯でサインや直筆のイラストが付き始める、といったケースが一般的です。

特徴的なリワードの紹介

次に特徴的なリワードについて、過去の事例を3つ紹介します。
まず最初はアニメ、「Kick-Heart」についてです。


「Kick-Heart」のリワードで特徴的なのは、”アップグレード”です。プロジェクトページを見ると、同じ金額のリワードが2種類あります。これは、もともと予定していたリワードに対して、その後、より内容を充実させたリワードを後日追加したためです。

15ドルのリワードは、もともと480Pサイズの本編のダウンロード版だったところ、アップグレードにより720Pサイズの本編ダウンロード版にポストカードや15ドル以下のリワードに付属する特典もすべて付くようになりました(先に15ドルのリワードに支援していたバッカーにも同様の特典が付属します)。

バッカーとして考えると一気にお得感が増し、支援したいという気持ちが強まることは間違いないでしょう。

次の事例はアニメ、「イヴの時間」についてです。


「イヴの時間」のリワードで特徴的なのは、”人気リワードの追加”です。「イヴの時間」のプロジェクトの中でバッカーが集中したのはBlu-rayがついてくる55ドルのリワードですが、高単価なリワードについては、Blu-rayのほか、コーヒーカップにソーサラー、キャニスターがついてくる145ドルのリワードも非常に人気でした。

145ドルのリワードをご覧いただければわかるかと思いますが、同じ内容のリワードが5種類もあります。これは個数制限をかけていたリワードに支援が集まり、個数制限をオーバーしたたため、支援者から要望を踏まえ、追加を繰り返した結果です。

人気の高いリワードにはこうして柔軟に対応することも、支援者の心をつかむために必要なのですね(初期に支援した人の気持ちも考え、リワードの配送順は支援順にするなど配慮も大切です)。

最後の事例は4億円以上の支援金を集めたゲームのプロジェクト、「Mighty No.9」についてです。


「Mighty No.9」のリワードで特徴的なのは、”対応プラットフォームの追加”です。厳密に言うとリワード設計というよりも、「支援金額合計に対しての追加特典」=ストレッチ・ゴールの設計にあたりますが、非常に有効なため紹介させていただきます。

ゲーム系のプロジェクトでは往々にして、開発コストを抑えるためにPC版のみの開発に基づくプロジェクトの発足となることが多いです。ただ、バッカーとしては自分自身が遊びたいゲームのプラットフォームは様々で、できることなら遊び慣れたゲーム環境で遊びたいと思っています。そこで、ユーザーの声を聞きながら、支援金額の増加にともない、PS3版/XBOX360版/WiiU版、PS4版/XBOX ONE版、PS Vita版/3DS版とプラットフォームを追加していったのが「Mighty No.9」の特徴です。

バッカーとしては、将来的に自分の望むプラットフォームで遊べるのであれば、先行投資として支援する、という人も出てきますし、もうちょっとでストレッチ・ゴールに届きそうだから友だちにも支援するように誘ってみよう、という人も出てくるでしょう。総合的な支援金額をふくらます上で、ストレッチ・ゴールは大きな役割を果たすことは間違いありません。

成功させるためのリワード設計とは

どういうリワードを設計すると成功しやすいか、という点はプロジェクトを企画する方は非常に気になると思います。

Kickstarterのリワードは1ドルから5ドルの低額のものから最大10,000ドルの超高額のものまで、幅広い設定が可能です。その際、最も重要となるのは、バッカーがそのプロジェクトに最も望んでいる価値は何で、そこにどのような形で付加価値を加え、納得感のある金額に収めていくか、ということです。

事例としてあげた3つはすべてソフト開発のためのプロジェクトなので、バッカーからの支援が最も集まるのは、(当然のことながら)「ソフト」自体に関するものです。その場合、検討すべきはダウンロード版と物理メディア版をともに用意し、バッカーに支援しやすい選択肢を作ること、さらに拡張パックや制作現場を収めたドキュメンタリー、アートに関するデータやサウンドトラックなど、ソフトに紐づく付加価値をオプションで提供することです。

上記のような特典であれば、ダウンロードでの対応やディスク化しての発送が可能で、かつファンからも要望が大きい要素であるため積極的に取り込むと良いと思います。ただし、リアルなリワードの制作費や発送費については、当初立てていた目論見をオーバーして、プロジェクト自体の予算を圧迫する一つの大きな要素なので、検討段階で費用の見積もりは大切です。

また、高単価なリワードとして望まれるのが、「プレミアムオプション」です。サイン/直筆イラストはバッカーから非常に喜ばれるとともに、プロジェクト主催者としては、時間と気力さえあれば対応は可能かと思います。できるだけ多くのリワードに盛り込むことができるように体制を作っていくことが、プロジェクトの成功に繋がります。

今回リワードの研究をするにあたり、Kickstarterに挑戦された方々に直接ヒアリングをさせていただきました。その中でいただいた言葉で一番印象的だったのは、「プロジェクトのトレンドは日々変化しており、2〜3年前のノウハウがそのまま現在でも通用するわけではない」というものでした。ですので、今回のまとめはあくまで現時点(2016年1月)のものであり、新しいプロジェクトの動向に常にアンテナを張っておくことが大切なのだと思います。


2. クラウドファンディング運用のお供に。Kickstarter便利ツール/サイトを紹介!

このパートでは海外クラウドファンディングを運用するにあたって、活用すると便利なツールや必須サービス/サイトを紹介します。

Kicktraq - 支援金額進捗チャート

Kicktraqの特徴は、プロジェクトごとの支援金額の進捗状況をチャートで可視化している点です。バッカーが増えた数やコメント数も日別で調べることができます。公開直後から一気にバッカーが増えてスタートダッシュに成功したパターン、締め切り間近に駆け込みで目標を達成したパターン、平均的に右肩上がりのパターンなど、様々な事例を見ることができます。また、現在勢いのあるプロジェクトをランキング形式で見ることもできるので、トレンドウォッチに役立つこと間違いなしです。

こんな感じで、各プロジェクトの進捗推移がグラフィカルに表示されます。

そして、調査を進めているうちに、「今までに最高でどれくらいの金額を集めたプロジェクトがあるのか」上位ランキングを見たくなるものですが……。

クラウドファンディング最高額ランキング - Wikipedia

このようにWikipediaにある程度まとめられた内容はあるものの、常に最新の情報が得られるわけではなく、この辺りは自力で探し出すしかありませんでした。そこで、Googleスプレッドシートを使って自動集計のランキングを自作してみました。

Kickstarterカテゴリ別達成金額ランキング - TOMお手製自動集計

このシートは、Kickstarterの日本国内のGamesカテゴリの中で、最も多くの資金を調達したプロジェクトの一覧になっています。バッカー数や金額をざっと調べたい時に役立ちます。別シートのタブを開けば、世界ランキングや他のカテゴリの閲覧できるようになっています。

しかし、Googleスプレッドシートの関数を使ってスクレイピングで情報を取得しているので、読み込みが遅かったりエラーが出たりします。もしかしたら(Kickstarter側で制限されたりして)見れなくなってしまうかも知れませんので、ご利用の際はあらかじめご了承ください。

Backerkit - プロジェクト主催者支援神ツール

Backerkitは、カリフォルニア州サンフランシスコに拠点を置くスタートアップで、クラウドファンディング支援サービスの提供をしています。Backerkitの特徴は、プロジェクト主催者にとって必要となる機能がほぼすべて網羅されていることです。

プロジェクトを立ち上げた主催者は、常にプロジェクトの進捗状況を追いながら、カスタマーサポートや情報のアップデート、さらにプロモーションやリワードの追加に対応していかなければなりません。その際に、「誰が」「何に」「いくら支援したか」を管理していくことだけでも大変な作業で、バッカー側も支援額を変更したりプランを変えたりキャンセルすることができるため、一歩間違えればトラブルの原因にも繋がってしまいます。

Backerkitは、これらの課題をスマートに解決するサービスです。主催者がプロジェクトに集中できるように、バッカーの状況を集約したダッシュボードが用意されています。

そして、プロジェクトが達成した後に必要となるバッカーとのコミュニケーション、リワードをバッカーの元へ送るための物理的な配送サポート、デジタルコンテンツのダウンロード機能なども備わっており、まさに神ツールといっていい存在です。

プロジェクト主催者は、必要な機能に応じていくつかのプランから選択可能になっています。

ちなみに、Backerkitは、Kickstarter以外のプラットフォームにも対応しているので、海外向けの他のクラウドファンディングを利用する際にも、とても重宝するツールです。

Fulfillment from A to Z - Kickstarter公式リンク集

Kickstarter上には、プロジェクト主催者が直面するであろう様々な問題をサポートするページが用意されています。斬新なアイデアがあっても、実際に物を作ったり、遠くに住んでいるバッカーの手元に届けるには様々な苦労が発生します。

無事にプロジェクトが達成/完了するために、公式的にKickstarterが用意してくれているので、本格的にプロジェクトを始める前に読み込んでおくと良いでしょう。


3. プロジェクトを成功に導くためのノウハウ。達成事例を分析!

ここからは、プロジェクトの達成を目指すために、過去の達成事例から見て学ぼう、ということで、これまで達成してきた数々の事例を調べてみました。特に、アニメ/マンガ/ゲームなどの事例を中心に集めています。

あのロックマンの生みの親によるファンとの新たなる挑戦

Mighty No.9

バッカーが支援を強く動機づけられる動画である

まずは、こちらの動画をご覧ください。

動画の要素だけ書き出すと以下のとおりです。

  • 稲船氏自身が出演し、本人の生の声で新しいゲームへの情熱が語られる
  • ファンの欲しいものを作っていくぞという意気込みが感じられる
  • 長年の夢だったゲーム企画が実現できなかった経緯を語り、それをファンとともに再始動させていくという物語性がある
  • 先駆けて制作に入っているゲームの一部を見せることで高い実現性を感じさせる

これらの要素をおさえた上で、とても素直な表現がたいへんすばらしく、ファン目線で見た時に、自分もこの作品を支援したい、さらにいえば、この作品に深く関わりたいという想いを駆り立てられる動画の作りとなっています。

段階的なストレッチ・ゴール設計と追加投資へのリワードで支援を加速化

本プロジェクトは、開始後4日間で目標金額の90万ドルを達成したことで、当時、たいへん話題になりました。さらにストレッチ・ゴールとして設定された120万ドルで2ステージ追加をも軽々クリアし、その勢いは止まらず、以降段階的に設定されたマルチプラットフォーム化やゲームの特別モード追加などのストレッチ・ゴールも達成していきました。最終的には、残り4日間で100万ドル以上もの投資が行われるという最後の追い上げを見せ、すべてのストレッチ・ゴールを達成するに至りました。

今回、Kickstarterでの初の取り組みをしている中で、4日目までの勢いに自信を感じた主催者側が、その後、段階的にゲームプラットフォームを増やしていくようなストレッチ・ゴールを設定したことで、それぞれのプラットフォームのユーザーを分散して各ステージで巻き込んでいったという点も、ここまで支援金を拡大させた一因であるでしょう。

この記事の前半の特徴的なリワードの紹介の中で、Mighty No.9のリワードについて詳しく述べていますので、ぜひそちらをお読みいただければと思います。

また、4gamerの記事によれば、

この驚異的な伸びは、追加投資でもらえる”ディスク版“や“ファミコンカートリッジ風USBフラッシュメモリ”によるものだと思われる。本作が”横スクロールアクション”ということもあり、やはり携帯ゲーム機で遊びたいと思うファンや、ゲームはデジタルデータとしてではなく、形として持っておきたいというバッカーが多かったのかもしれない。

とも分析されています。

いずれにせよ、プロジェクトを開始する段階から、ストレッチ・ゴールの追加や追加支援へのインセンティブ等は想定しておけると良いと言えるでしょう。ただし、それを想定するばかり、ゴールやリワードの内容が無難なものにならないよう留意する必要があります。

その後の本ゲームのリリースについては、これまで開発上の事情により、延期が続いていましたが、先日、世界への配信開始は2016年2月12日(北米のみ2016年2月9日)と発表され、ついに発売が迫ってきました。当初の予定から追加のストレッチ・ゴールによって、ファンの望む様々な仕様が追加されてきたゲームということもあって、実際のゲームがどのような内容になっているか、非常に楽しみですね。

幻となった伝説のゲームの続編、国内史上最高支援金額7.8億円を達成した理由

Shenmue 3

未完の超大作を待ちわびたファン×世界最大のゲームショーでの発表

未完の超大作と呼ばれるシェンムーに関する過去作品の背景は以下のとおりです。

  • 当初は全11章で構成される予定の長編アドベンチャーゲーム
  • 1999年発売の「シェンムー 一章 横須賀」は当時のギネスブックに世界一制作費のかかったビデオゲームとして掲載されるも売上は約60万本と、膨大な制作費に見合ったものではなかった
  • 2001年には、第2章を飛ばして3〜6章を収めた「シェンムー2」がリリースされるも既にセガはゲーム機事業から撤退を決定済みで、終息期のドリームキャストのゲームを求めるユーザーも少なく、約15万本の販売に留まる
  • さらなる展開が「シェンムー3」として用意されていたものの、様々な要因で開発は休止

そんな経緯から未完の超大作と呼ばれるシェンムーであったのですが、2015年6月16日、生みの親である鈴木裕氏より最新作「シェンムー3」プロジェクトを再始動するとE3 2015のソニー・コンピュータエンタテインメントのカンファレンスで発表されました。

そのゲームを長年待ち望んでいたファンも多かったこともあり、今回の資金調達プロジェクトは、なんと開始後1時間42分で100万ドルに達し、「最も短時間で100万ドルを集めたビデオゲーム」としてギネスワールドレコーズに認定されました。また、約8時間半後には、当初の最低目標額である200万ドルに到達しました。その開始直後の爆発的な伸びがあったことが下記のKicktraq.comのグラフからも一目でわかります。

以上のような経緯を踏まえると、まずはここまで続編を待ち続けたファンあってこその成功であるといえます。また、E3という世界最大のゲームショーで発表したということで非常に多くのニュースにも取り上げられていました。よって、それらの相乗効果が強く働いたことが伺えます。

補足として、提供されていたリワードにも注目すると、100ドルでゲームのクレジットに名前が掲載される権利が含まれていたり、300ドルでディレクター鈴木裕氏のサイン入りイラストをもらえる権利が含まれていたり、ファンからすると、金額の割にリターンが大きいような設計がされています。また、既存シリーズのファンが多いこともあり、1,500ドルのゲーム内の鳥舞の船着場にバッカーの名前と写真とサインが貼られる権利や、6,000ドルの芭月涼との戦闘シーンに関わらないノンプレイヤーキャラクターとして出演する権利など、高額なわりに多くのバッカーが存在した点も参考になるでしょう。

その後のシェンムー3ですが、現在、日本からも支援しやすいようにオフィシャル特設ページで追加支援を受け付けています。実際のゲームのリリースは、2017年12月末を予定しているということで、長年、未完の超大作を待ちわびたファンであればより一層、待ち遠しいことでしょう。今後の動きに要注目です。

熱量の高いバッカーの囲い込みが鍵!手塚治虫のローカライズプロジェクトに学ぶ継続的アプローチ

クラウドファンディングのプロジェクトというと、大きな花火を一発打ち上げるといったイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、固定されたファンに対して継続的にアプローチを重ねることで、小規模ながらも複数回に渡りプロジェクトを成功させた事例も存在します。

このプロジェクトは米国ロサンゼルスに拠点を持つDigital Manga Inc.が手塚プロダクションより許諾を受けて、主に北米向けに過去の手塚作品をローカライズして出版することを目的に立ち上げられたプロジェクトの一つです。過去にTOMでもニュース記事に取り上げました。

ファンの自尊心を刺激するリワード内容

ローカライズされた作品のデジタル版閲覧権(10ドル)、書籍版の送付(20ドル)、またその両方のセット(30ドル)が基本的なリワードとなっています。ここから支援金額に応じて、オリジナルのTシャツ、コースター、トートバックなどのリアルなグッズが加わっていく設計です。

ユニークなリワードとしては、「あなたが選ぶローカル図書館への寄贈」が挙げられます。これはバッカーが指定するリアルの図書館にプロジェクトでローカライズされる手塚作品が寄贈される仕組みです。例えば、バッカーの地元の図書館に寄贈した手塚マンガを、地域の子どもたちみんなに読んでもらうといったことが実現するのです。直接的な利益はなくとも、ファンの自尊心を刺激するうまい取り組みと言えるでしょう。

熱量の高い固定ファン層に向けた継続的なアプローチ

本プロジェクトにおいて特に注目したいポイントは、上記で記載したユニークなリワードでなく、むしろ「手塚治虫ファン」へ向けた継続的なアプローチ手法です。それを探る手がかりは、プロジェクト主催者のアカウントにおける過去のプロジェクト履歴から読み取れます。今回紹介したプロジェクト事例以前に実施した履歴を見てみましょう。

勘の良い方はすぐにお気づきになったかと思いますが、実に、9件中8件が手塚治虫のローカライズや復刻に関するプロジェクトです。さらには、そのうち87.5%のプロジェクトが成功しています。

Kickstarterにおけるコミックカテゴリのプロジェクト平均成功率が約50%であることを鑑みても、かなり高い成功率であることは間違いありません。推測となりますが、この高い成功率の裏には、リピーターの存在がかなり影響していると考えられます。

なぜなら、一度手塚治虫のプロジェクトに支援してくれた熱量の高いバッカーは、次回同様のプロジェクトが立ち上がった時に再び支援してくれる可能性が非常に高い顕在化されたバッカーであり、そこに対してプロジェクト主催者はKickstarterのツールやメール(DM含む)を通じてピンポイントでのアプローチが可能だからです。

それぞれのプロジェクトの最終的なバッカー数を比較してみると、初回を除きすべて350〜700人台の範囲に収まっています。このことからも、ある程度パイの決まった固定されたファンが繰り返し支援しているであろうことが読み取れます。

このように、一度プロジェクトの成功によって獲得したロイヤリティの高いバッカー層に対し、別プロジェクト発足時に継続的にアプローチをし、囲い込みをすることで成功率を高めるのもKickstarterにおける一つの有効な手段となり得ます。

リトルウィッチアカデミア2がロケットスタートを切るために行った2つのシンプルな仕掛け

リトルウィッチアカデミアは、元々は文化庁が主催する若手アニメーター育成プロジェクト、「アニメミライ2013」の一作として劇場で公開された短編アニメーションです。制作プロダクションは、「天元突破グレンラガン」などの今石洋之氏をはじめとしたスタッフが立ち上げた、「TRIGGER」で、吉成曜氏が監督を手がけて制作されました。

爆発的なロケットスタートでわずか6時間で目標金額を達成

このプロジェクトの特徴は、なんといってもスタートからわずか6時間で目標金額を達成するという爆発的な初動です。

Kickstarterの資金調達フェーズにおける大きな動きは最初の3日と最後の3日であり、そこでいかに注目を集められるかが成否を分けると言われていますが、その中でも本プロジェクトの初動は群を抜いています。

リトルウィッチアカデミア2の支援金額の推移グラフ:30日間

引用:kick traq.com

グラフをみていただければわかるとおり、1日目で目標金額の2倍近い30万ドルに迫る調達を果たしており、これは最終的な達成金額である約62万ドルの半分程度を、初日に集めたことになります。

ちなみに、この作品で監督を務めた吉成曜氏はアニメーターとしての実績は十分ありましたが、実は監督として手がけたのはリトルウィッチアカデミアが初でした。また、オリジナル作品かつ日本限定の劇場公開だったため、作品自体の知名度も海外では低かったはずです。

海外での実績も知名度もないはずの作品の続編を制作するためのプロジェクトが、なぜここまでのロケットスタートを切ることができたのでしょうか?

ここではその「初動の仕掛け」にフォーカスを当てて探っていきたいと思います。

惜しげもない作品のネット配信とリアルイベントの掛け算

作品自体の海外認知を飛躍的に広げた最大の要因は、なんといっても日本での劇場公開後にYouTubeで期間限定公開した英語字幕付き配信です。

劇場公開作品が直後に無料で正規配信を行うというのは、一般的な興行作品であれば考えにくいことかもしれません。しかし、「アニメミライ」は国が制作費を拠出し、版権は事業終了後に制作側に完全譲渡することが明記されており、この仕組みで作られたリトルウィッチアカデミアだからこそ可能だったプロモーションと言えるかもしれません。

YouTubeでの再生回数は70万回超。海外ユーザーからも絶賛され、続編公開を望む声が多く集まりました。ここで生まれたファンと熱量をその後のKickstarterのプロジェクトにうまく結びつけていったことが、最初の成功要因でしょう。

もう一つが海外リアルイベントとの連動です。

本プロジェクトではKickstarterのスタートに合わせ、北米最大のアニメイベントであるAnime Expo 2013で監督らが直接ファンに対してイベントを行い、支援の呼びかけを行いました。

ファンイベント会場の様子

引用:t-ono.net

このように、お祭り的なイベントの場でファンに対して呼びかけを行うことで、その場の熱気に後押しされ直接的な支援が期待できるのに加え、複数の現地メディアに取り上げられて拡散する可能性も高まるため、非常に有効なプロモーションとなり得るでしょう。

Kickstarterの大型プロジェクトの実施の際に、こういった海外イベントに合わせてスタートするケースも増えています。一例を挙げると、ゲームカテゴリでは史上最大となる約7.8億円を集めたシェンムー3プロジェクトも、ロサンゼルスで開催されたイベント「E3」の壇上で発表を行なっており、初日から約3億円を集めるなど大きな注目を集めました。

実はブルーオーシャン?ガジェット・プロダクト系カテゴリ

最後に、ガジェット・プロダクト系のカテゴリの事例を見てみましょう。このカテゴリに該当するプロジェクトは、Kickstarter上では「Design」と「Technology」に多く見られます。
このカテゴリの特徴は、立ち上げられたプロジェクト数に対して、調達した支援金額が非常に大きいという点にあります。

Kickstarterが公表しているデータをご覧ください(2015年10月時点)。

カテゴリごとのローンチされたプロジェクト数では、1位の「Film&Video」に対して、「Technology」が6位、「Design」が7位となっています。

しかし、調達した支援金額のグラフを見ると、両カテゴリとも1位である「Games」の次にランクインしています。

この要因は、ガジェット・プロダクト系のカテゴリ自体が、「自宅で使える3Dプリンタを作る」や「革新的なスマートウォッチを開発する」といった内容が多いため、参入障壁が高く、商品が高額でも注目されやすいという性質によるものだと思います。

そして、TOM的な視点で見ると、このカテゴリは「オタク系プロジェクト」が極端に少ない(もちろんハードウェア的な意味やニッチなガジェットという視点では、「その筋」の人に喜ばれるプロジェクトが多い)ことが伺えます。これは、もしかすると日本のクリエイターやコンテンツホルダーにとってはチャンスかもしれませんね。

最初は、Indiegogoの成功事例を紹介します。

日本でもバズったネコ耳ヘッドフォン「AXENT WEAR」

ネコ耳型のヘッドフォン「AXENT WEAR」は、カリフォルニア大学バークレー校卒業生のWenqing YanとVictoria Huが立ち上げたプロジェクト。ネコ耳とスピーカーとヘッドホンの3つが合体したモデルで、使用者は音楽を聴くだけでなく、近くにいる人と音を共有することができるというものです。

このプロジェクトの優れている点は、ネット利用者の属性に「刺さる」商品を、こだわりを持って「上手に」見せたこと。思わず「欲しい!」「可愛い!」と思わせるビジュアルのインパクトは、SNSで友達にシェアしたり、衝動的に即支援する気にさせるのに十分なパワーを持っていました。

ネコ耳のフォルムとLEDで光る近未来的な演出は、日本のネットユーザーにも伝わって話題になったことを覚えている方もいるのではないでしょうか。その結果、このプロジェクトは目標金額の10倍以上の資金調達に成功し、量産を開始することになりました。

しかし、プロジェクト成立後に中国の製造工場が環境・人権に関して基準を満たしていないとの理由で出荷時期が大幅に延期。一時期はこの商品が本当に手に入るのか不安の声も上がっていましたが、2015年10月30日に無事出荷を開始しました。TOM社内でも支援したメンバーがいたのですが、日本にも無事に届いています。

資金を集めてから物を作る段階でトラブルに見舞われるプロジェクトは少なくありません。このような状態に陥ると、プロジェクト主催者は、「問題の解決」と「バッカーを不安にさせないためのコミュニケーション」を同時に進めていかなければなりません。問題が起こらないことが一番良いのですが、前もってトラブルの事例を把握しておいた方が良いと言えます。

全部入りクーラーボックス「COOLEST COOLER」成功の裏側

次に紹介したいのは、オタク系とはかけ離れているクーラーボックスです。日本人からすると、「なんでこんな物がわざわざクラウドファンディングに出るんだろう?」と疑問に思うかもしれませんが、このプロジェクトが「6万人から13億円を集めた」と聞いたら見る目が変わるでしょう。

COOLEST COOLERは、ジューサー機能、Bluetoothスピーカー、モバイル充電器、栓抜き、ワイドタイヤ、防水機能などを搭載した多機能クーラーボックスを作る、というコンセプトで始まっています。

意外にも、このプロジェクトを立ち上げたGrepper氏は、過去にプロジェクトで失敗した経験を持っていました。約一年前に同じようなコンセプトのクーラーボックスで支援を募りました。しかし、結果は失敗。目標の12.5万ドルには届かなかったのです。

そこで彼は、この失敗からいくつかの教訓を引き出したと言います。

Kickstarterはビジュアルが非常に重要なメディアである

「1回目の試作品は、キャンペーンに出品する前から魅力的に見えるようにデザインに変更を加えていたが、それではまだ不十分だった。2回目の挑戦では、さらに改良することにした。そして、動画も機能がより明確に伝わるように撮り直すことに決めた。」

支持者はキャンペーンを立ち上げる前に集めておかなければならない

「1回目はキャンペーンの準備に追われ、事前にプロジェクトの支持者を集めておく余裕がなかった。そのせいでスタートダッシュで出遅れた。1回目のキャンペーンを支持してくれた人たちの中から、『今回はダメだったが、Coolest Coolerが世に出るのを待ち続ける』という声が上がった。その人たちと連絡を取り続けたおかげで、2回目のキャンペーンは1回目に比べ、最初から有利な状況で臨むことができた。」

キャンペーンを立ち上げる時期は重要

「11月にキャンペーンを立ち上げたのは大きな失敗だった。冬場はクーラーボックスに対する消費者の購買意欲や関心が、夏に比べてずっと減退する。」

この教訓は、他のカテゴリーでも役立てることができるでしょう。いちど失敗したプロジェクトでもやり方を変えれば大成功を収める可能性があるということ、また、優れたアイデアだけでは成功しないという意味で、とても参考になる事例です。


4. 個人クリエイターがプロジェクトを達成させるための秘訣

単独でクラウドファンディングにチャレンジしたいと考えている個人クリエイターも多いと思います。とはいえ、個人で立ち上げたプロジェクトが成功できるか、支援金が集まるか、運用はどうすれば良いのかなど、いろいろな不安がつきまとうと思います。

そこで、これまでの成功事例から、成功させるためのノウハウやコツについて様々な角度から分析してみました。ちなみに、ここでいうクリエイターというのは主にイラスト、写真、造形、デザインなどを個人で創作活動をされている方を指しています。

初日で目標金額の3倍以上の支援金を調達できた3つの理由

海外事例1:The Art of Loish: A Look Behind the Scenes

オランダで活動されているデジタル・アートとアニメーション作家のLoishさんが2015年8月25日に立ち上げたデジタルアートブックのプロジェクト。調達金額は目標額2万ポンド(日本円で約345万円)に対して、なんと10倍以上の24.6万ポンド(日本円で約4,125万円)。プロジェクト開始の2時間で目標金額の2万ポンドを達成。初日で目標金額の3倍以上の支援金を調達しました。バッカーは7,663人。なぜ彼女のプロジェクトはここまでの成功を達成できたのでしょうか。3つのポイントを挙げてみました。

A mock-up of the Art of Loish book

動画を通じてバッカーと密なコミュニケーション

アップデートの頻度は期間を通して15回。およそ2日に1回はアップデートしています。彼女のアップデートの特徴として、たびたび、動画が一緒に公開されており、単なる画像で見るよりもリアリティが増します。進行度合いを具体的に見ることができたのが一つのポイントになったのかもしれません。

また、おもしろかったのがバッカーから動画で質問を募集しそれに動画で応える、といった取り組みをYoutubeで公開しています。バッカーとの密なコミュニケーションはとても重要です。

最後の一週間は、バッカーに対して、各々のソーシャルメディアへの拡散を呼びかけています。この時点でストレッチ・ゴールは達成しており、バッカーも、もはやプロジェクトの一員のような感覚になっているのだと推察できます。

ストレッチ・ゴールのリターンも手を抜かない

プロジェクト開始から約一週間後の9月4日にストレッチ・ゴールを設定しました。15万ポンドでブックマークカードを23ポンド以上のバッカー全員に、20万ポンドでオリジナルイラストのトランプ・カードを23ポンド以上のバッカー全員に。この時点で、すでに15万ポンドは達成間近でした。20万ポンドも十分達成が可能な金額でしたので、バッカー自身も一緒になって応援する熱がより高まったものと思われます。

成功確率が高まるStaff Picksへの選出

本プロジェクトはKickstarterのStaff Picksに選ばれています。こちらも大きな成功を収めた要因の一つでしょう。Staff Picksに選ばれるメリットはサイト上での表示やニュースレターに取り上げられる確率が高くなることです。Staff Picksに選ばれるにはまず、stories@kickstarter.com にメールを送る、@kickstarter にツイートする、公式Facebookページにポストするといった手段で、Kickstarterのスタッフにプロジェクトのストーリーを伝える必要があります。それがスタッフの目に止まればStaff Picksに選ばれるかもしれません。また、ストーリーを伝えるのみならず、プロジェクト自体のブラッシュアップも必要であることをお忘れなく。

丁寧なアップデートとストレッチ・ゴールとリワード設計の妙

海外事例2:Ukiyo-e Heroes

日本をこよなく愛し、自らをオタクと称するイラストレーターのJed Henryが、25年近く日本で木版画制作を仕事としているDave Bullに声をかけたことにより始まった2人のプロジェクト。2人は日本のビデオゲームからインスパイアされたキャラクター、イラストを日本の伝統的な手法である木版画で表現することを目指しました。目標金額の30倍近くの支援金を調達した彼らのプロジェクト成功までのアクションを振り返ります。

日本語字幕付きメッセージビデオがありますので、まずはこちらをご覧ください。

価格の低いリワードはジークレー印刷のポスターが設定されていますが、これだけでも1,000人程度のバッカーがいます。元々のイラストに対する評価が大きいことがわかります。

プロジェクトの進捗状況を丁寧にアップデートで伝える

プロジェクトは2012年8月1日にスタートし、目標金額である10,400ドルに対して、調達金額は31万ドル。バッカーは2,421人でした。初日で目標金額の5倍以上の支援金を調達。プロジェクト期間中は24回ものアップデートを行いました。かなり細かくプロジェクトの進捗状況を伝えるとともに、達成後の製作状況、情報配信なども都度行っていました。

ストレッチ・ゴールによって段階的に追加されていくリワード

このプロジェクトのストレッチ・ゴールはイラストの種類が増えていくことです。最終的にすべてのイラストが木版画として提供可能な17万ドルを8月14日、プロジェクト期間のおよそ半分の日数で達成しました。

ただし、ここで課題になってきたであろう点が一つあります。バッカーは一つのリワードにしか支援できないのです。つまり、木版画の追加イラストが後からリワードとして追加された場合に、先に支援している人は別のリワードに支援することができないのですね。ページ上では、追加で欲しい場合は直接メッセージを送るようにアナウンスされてはいますが、それだと面倒ですよね。現在では彼らのオフィシャルサイトから購入可能にして、対策を行ったようです。

彼らのビデオの中でも語られていますが、浮世絵は日本古来のポップアートで海外にも多くのファンがいます。日本から海外に発信されたポップアートの先端と言っても過言ではないでしょう。現代のクリエイターの多くがそこからインスピレーションを受けています。日本人として浮世絵を見た時の感じ方が変わるかもしれません。

正統派の成功パターン。ひねらずシンプルに作品力で勝負

国内事例1: Character Sculpture by Japanese Artist TAKAYUKI TAKEYA

日本国内外において映画、玩具、フィギュアなど様々な領域で活躍されている造形アーティスト竹谷隆之さんのプロジェクトです。フィギュア原型は、「ファイナルファンタジーⅧ」、「エイリアン」、「プレデター」、「仮面ライダー」、「デビルマン」など多数手がけられています。今回のプロジェクトでは2013年7月に東京で開催された個展「竹谷隆之の仕事展」にて、キービジュアルとして制作されたオリジナル造形作品「ニクネカムイ」が国内外から多くの反響があったとのことで、Kickstarter限定版として製作されました。一般販売の予定が無かったため、購入できるチャンスはこのKickstarterのプロジェクトのみだったのです。

シンプルでわかりやすいリワード設定

本プロジェクトのリワード設定は非常にわかりやすく3種類設定されています。
純粋に作品が欲しい人にとっては、迷うことなく支援できるところもポイントです。

$190 : OGREGOD SCULPTURE
展示会用に制作した竹谷氏オリジナルキャラクター「ニクネカムイ」のキックスターター限定作品。

$220 : OGREGOD SCULPTURE & DVD
「ニクネカムイ」に加え「 創作の秘密メイキング・オブ・ニクネカムイ 」DVD(約10分)付き。

$260 : OGREGOD SCULPTURE WITH AUTOGRAPH & DVD
竹谷氏直筆サインが「ニクネカムイ」台座部分に加えられるプレミアム商品。DVDも付いています。

期間中のアップデートも6回と最低限の内容になっています。プロジェクト開始から一週間ほどでStaff Picksに選ばれています。2週間後には目標金額の21,800ドルを達成し、最終的には36,629ドルの支援金を調達しました。純粋にプロダクトを作ることに集中した当プロジェクトは、Kickstarterの最もベーシックなお手本になるのではないでしょうか。逆に言えば、高い作品力があってこその成功と言えるでしょう。

緻密なリワード/ストレッチ・ゴール設計に基づく成功事例

国内事例2: Akiba Anime Art Magazine vol.00 - Otaku pop culture scenes

TOMではおなじみのJohnHathwayさん率いるJH Labが2013年8月に立ち上げたプロジェクト。本プロジェクトは秋葉原から世界へ日本のポップカルチャーを発信していくアートマガジン「Akiba Anime Art Magazine」を創刊するためのプロジェクトです。

JohnHathwayさんはもちろんのこと、初音ミクのキャラクター原案を手がけたKEIさんや、藤ちょこさん、月嶋ゆうこさん、Julie WataiさんなどTOMが運営する otakumode.comのGallery に参加していただいているアーティストも数多く本プロジェクトに参加しています。

4,500ドルの目標金額は、プロジェクト開始からわずか48時間で達成しました。最終的には1,548人のバッカーから1,600%以上の達成度で7.4万ドルを調達しています。

細かく段階設定されたアドオンとストレッチ・ゴールが成功の決め手

アドオンとは支援額にプラスすることで、追加の限定アイテムがリワードとしてもらえます。支援金を積み上げるには有効な手法だと思われます。リワードは以下のように設定されていました。

$5 ポストカード6種類セット
$10 マウスパッド
$16 特製タンブラー
$15 Tシャツ
$28 オリジナルiPhoneケース
$32 トートバッグ
$32 ポスター8種類

参加者による総支援額によってリターンが増えるストレッチ・ゴールも以下のように設定されています。バッカー自身がプロジェクトを盛り上げるモチベーションになります。細かく段階的に設定することで、ゲーム性も出てきます。

<ストレッチ・ゴール:金額設定>
$4,500 この額を超えた時点で本が発行されます
$15,000 ステッカーが付録に付きます
$20,000 ページ数が増えイラストが増えます
$25,000 本のサイズが大きくなります
$30,000 印刷のインクが色域の広いKaleidoインクになります
$35,000 日本語の解説冊子が付録で付きます
$40,000 ランダム種類の限定トレーディングカードが付録で付きます

<ストレッチ・ゴール:バッカー人数>
500人以上 オリジナル缶バッジが付録で付きます
1,000人以上 コルク製のコースターの付録が増えます

<ストレッチ・ゴール:Facebookページ>

Facebookページが「500いいね」をされるとクリアファイルが付録で付きます

バッカーがJohnHathwayさんのイラスト内に登場できるプレミアムなリワードも

600ドルのリワードにはJohnHathwayさんがバッカーの写真を元にキャラクターとして描き下ろしてくれる内容が、1,000ドル以上のリワードにはJohnHathwayさんが描くイラスト内にバッカー自身が登場できる内容が盛り込まれています。これはファンにとってはたまらないプレミアム感のあるリワードと感じられるでしょう。

個人クリエイターがプロジェクトを成功させるための三か条

クリエイターごとにプロジェクトの進め方は異なるものの、成功する確度を高めるという点では、以下が3点が効果的だと思います。

  • Kickstarterに詳しく、プロジェクト運用をサポートしてもらえるパートナーを見つける。開発案件については、確実にプロダクトができあがると思ってもらえるように製作パートナーの選定も重要
  • Staff Picksに取り上げてもらえるように、プロジェクトに関するストーリーをKickstarterのスタッフに伝え、自身のプロジェクトページをブラッシュアップし続ける
  • 最初から大きなゴール設定をせずに、ミニマム設定のゴールでプロダクトの製作は担保する。さらに、アドオンやストレッチ・ゴールを使って段階的に調達金額を引き上げ、ボリュームやバリエーションをつけていく

以上、個人クリエイターがプロジェクトを成功させるためにすべきこととして、まとめさせていただきました。


5. Kickstarter Statsから分析するプロジェクト失敗学

さて、ここまで様々なケーススタディを見てきて、「こんなにたくさんの成功事例があるならすぐにでもチャレンジしてみよう!」と思われた方もいるかもしれません。

ただし、紹介されるプロジェクトはどうしても成功事例に偏ってしまうものです。

このパートでは、そのはやる気持ちをおさえて冷静になるためにも、「失敗」に焦点を当てて分析していきましょう。なお、ここでいう失敗とは、「目標金額に対して未達に終わったプロジェクト」と定義します。

Kickstarterの今が丸わかり?「Kickstarter Stats」とは

Kickstarterというプラットフォームを俯瞰して理解するために、まず見ていただきたい情報があります。それが「Kickstarter Stats」です。

Kickstarter Stats

ここでは名前のとおり、Kickstarterのステータス=状態をマクロなデータでほぼリアルタイムで確認することができます。キャプチャ画像は2016年1月20日時点の情報ですが、以下の数値が並んでいます。

  1. Total dollars pledged to Kickstarter projects:$2,167,271,864
    ⇒これまでの支援金額の合計(達成/未達成は問わない)

  2. Successfully funded projects:99,368件
    ⇒ これまでに成功したプロジェクトの件数

  3. Total backers:10,169,925人
    ⇒ これまでに支援したバッカーの累計人数

  4. Repeat backers:3,158,594人
    ⇒ これまで複数回にわたり支援したバッカーのリピート人数

  5. Total pledges:27,743,310件
    ⇒ これまでに作られたリワード数

カテゴリ別の成功率/失敗率は?

このページの情報をさらに見ていくと、Kickstarterのカテゴリ別の成功率/失敗率も見ることができます。見やすいように少し整理してみました。

Kickstarterのカテゴリ別成功率と失敗率(失敗率降順)※2016年1月20日時点

これを見て一気に冷静になった方もいるかもしれません。

そう、何を隠そうKickstarterのプロジェクトは全体では62.66%の確率で失敗するのです!

またカテゴリ別のプロジェクト失敗率をみると、テクノロジー系は実に約77%が失敗するのに対し、ダンス系は約36%に留まるなど大きな開きが見られます。

推測として、テクノロジー系は必要な金額が多い(平均達成額8.6万ドル)のに加え技術的課題をクリアできない可能性がありリスクが高い一方、ダンス系は必要な金額が低く(平均達成額5,000ドル)、人間のやる気次第で実現可能性も高くリスクが低い、などと考えられることはありますが、いずれにせよ本当のところは個別に分析しないとわかりません。

ただし、一つ前向きな情報としては、上で紹介した事例や、日本からの実施例の多いアニメ/マンガ/ゲーム/クリエイター系コンテンツに絡むプロジェクトは、比較的成功率が高いカテゴリという事実があります。

失敗プロジェクトの84%はほとんど支援されていないまま終わる

もう一つ面白いデータがあります。それは、失敗したプロジェクトの84%は、ほとんど支援金を集められないまま終わっているという事実です。

こちらのグラフは、失敗したプロジェクトが目標金額に対して何%まで支援金を集められたかの分布です。横軸が目標に対する支援金達成率、縦軸がプロジェクト数になります。

ご覧いただけるとわかるとおり、目標に対し20%以下しか集められなかったプロジェクトがほとんどを占めており、失敗したプロジェクト全体の約84%となっています。逆に、目標に対し81%以上集められたプロジェクトは、わずか0.76%しか失敗していません。

目標の20%以下しか支援を集められなかったプロジェクトというのは、目標金額の設計が無謀だったり、プロジェクトページにまったく魅力がなかったり、スタート後に放置したりと、何らかの致命的な原因があって失敗したと見るのが妥当です。

つまり、プロモーション含め、緻密にプロジェクトを設計し、そしてスタート後の運用をしっかり行うことで、プロジェクトの成功率は飛躍的に高まります。

全体データから見る失敗率の高さを不必要に警戒する必要はありませんが、一方で成功確率を高めるため行うべき準備や運用の大切さを、この「Kickstarter Stats」は教えてくれます。


6. 知っておきたい北米クラウドファンディングの基礎知識

このパートでは、おさえておくべき北米のクラウドファンディング基礎知識についてまとめました。ひとくちにクラウドファンディングといってもテーマが広すぎるので、まずは大きく整理した上で、話を進めていきたいと思います。

クラウドファンディングは、支援者の支援する対象と見返りによって大きく4つに分類されます。

  1. 投資型(Equity):支援者への金銭的リターンが発生。未上場でも小口で株式に投資できるもの。
  2. 寄付型(Donation):支援者への金銭的リターンがない。発展途上国支援など社会性の高いプロジェクトに対して支援できるもの。
  3. 購入型(Rewards):支援者が何らかの権利や物品を購入するために特定のプロジェクトを支援できるもの。
  4. 融資型(Lending):ソーシャルレンディングとも呼ばれ、個人間の金銭の貸し借りをネットで仲介するもの。

この記事の中で中心となっているKickstarterやIndiegogoについては、この中の3の「購入型」に該当しますので、今回、北米のクラウドファンディングの基礎知識は、「購入型」に焦点を絞って調べていくことにします。

北米のクラウドファンディング市場規模

まずは、北米でのクラウドファンディングの市場規模はどの程度となっているのでしょうか?参考までに2014年のクラウドファンディング市場規模を北米と日本のデータで比較してみましょう。

北米:約1兆1000億円
※1ドル117円として算出
CROWDFUNDING INSIDERの記事より)

それに対して日本は、
日本:197億1200万円
矢野経済研究所「国内クラウドファンディング市場に関する調査結果 2015」より)

上記数字はあくまで、全タイプのクラウドファンディングを合計した市場規模となりますが、ケタ違いもいいところです。日本と比べ、北米がいかに大きな市場規模か理解できると思います。

また、購入型クラウドファンディングに絞って見た場合でも、Kickstarterが1社のみで調達総額が5億2900万ドル=619億円※1 なのに対して、日本の購入型クラウドファンディングの2014年度の市場規模は合計で20億円※2 となっており、その差に驚かされます。

※1 Kickstarter社の「The year in Kickstarter 2014
※2 矢野経済研究所「国内クラウドファンディング市場に関する調査結果 2015

よって、現状においては、日本のクラウドファンディングよりも北米のクラウドファンディングのほうが、大きな支援金を集められる可能性が高いと言えます。もし、最初から世界展開を視野に入れているようであれば、北米のクラウドファンディングのプラットフォームを使うことをおすすめします。

北米の購入型クラウドファンディングのプラットフォーム

北米の購入型クラウドファンディングのプラットフォームの、投資タイプ、カテゴリが、VERTICAL MEASURESによるインフォグラフィックにたいへんわかりやすくまとめられておりましたので、一部抜粋し紹介させていただきます。

投資のタイプは以下3通りに分けられます。

  • Bounty(プロジェクトが完了したら報奨金として支払われる)
  • All or Nothing(目標を達成したら支援金が支払われる)
  • Keep it all(目標を達成しない場合でも支援金が支払われる)

また、それぞれのサービスによって、得意とするジャンルが異なります。その中でも特に、アート、コミック、ゲーム、テクノロジーなどのクリエイティブなプロジェクトに関しては、KickstarterとIndiegogoが得意とする分野であり、同時に、特性上、革新性の高いプロジェクトや製品が出てきやすいプラットフォームです。話題になりやすいため、結果として、それらが一般に知られているクラウドファンディングのサービスになっているとも考えられます。

その他のサービスについては、また別の機会に調査していければと思いますが、購入型のクラウドファンディングだけでも多くのプラットフォームが存在していることがわかります。

Kickstarter 対 Indiegogo

さらに深掘りし、知名度の高いKickstarterとIndiegogoに焦点を絞り、それぞれの違いについてまとめてみました。

Kickstarter vs Indiegogo(2016年1月時点) - Tokyo Otaku Mode調べ

<投資タイプ>

こちらはKickstarterとIndiegogoを選択する一つの大きな軸となるでしょう。プロジェクト支援者が、Kickstarterは目標を達成しないと支援金が得られないのに対して、Indiegogoは目標を達成しなくても支援金を得ることができます

<決済サービス>

Kickstarterでは、以前Amazon Paymentが使われていましたが、2015年1月よりStripeに変更されました。また、IndiegogoではPaypalおよびクレジットカードでの決済が可能となっています。これら決済サービスは、一つの特徴としてクレジット顧客情報やカード情報が漏れないようにセキュリティを担保しているので、日本を含め、世界的にインターネット上の取引では欠かせないものになりつつあります。

<プラットフォームフィー>

プロジェクト主催者側の費用として、両プラットフォームとも同じく調達金額に対して5%となっています。

<ペイメント・プロセスフィー>

プロジェクト主催者側の費用として、Kickstarterでは調達金額の3%に加え、1支援につき0.2ドルが加算されます。Indiegogoでは、Paypalを前提とした場合、3〜5%(Paypalのレートにより変動)がかかります。また、クレジットカードの場合、調達金額の3%に加え、1支援につき0.3ドルが加算されます。

<動画ホスト>

両社ともに、Youtube、Vimeoのエンベッドは可能です。さらには、Kickstarterでは自社の動画ホスティングサービスも提供しています。

<プロジェクト審査>

この点も大きな違いの一つですが、Kickstarterはプロジェクト公開に対して審査が入ります。Kickstarterのスタッフによって、プロジェクトが準備できているかどうかのチェックが行われます。Kickstarterが質の高いファンディングのコミュニティを目指しているため、事前の審査が行われているそうです。一方で、Indiegogoはその審査がありません

<プロジェクト登録対応国>

Kickstarterは、以下の18カ国に対応しています。

アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、オランダ、デンマーク、アイルランド、ノルウェイ、スウェーデン、ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、オーストリア、ベルギー、スイス、ルクセンブルグ

Indiegogoは、世界各国223カ国に対応しています。

<プロジェクト日数>

両プラットフォームともに、1〜60日にて自由に設定可能です。

<トラフィック(月)&ユーザーの特徴>

トラフィックは、Kickstarterのほうが約2倍ほど多いです。また、ユーザーの特徴として、Kickstarterは男性:女性の比率が7:3に対して、Indiegogoでは5:5くらいです。

KickstarterとIndiegogoを比較した時、どちらが優れていると単純に判断できるものではないですが、それぞれ特徴となる点はあるので、一つ一つの特徴を踏まえて、計画しているプロジェクトがいったいどちらにマッチするのかを検討し、使い分けることをおすすめします。


凄まじく長文になってしまったのですが、これを一通り読んでいただければ、海外クラウドファンディングの状況、KickstarterやIndiegogoの可能性、プロジェクトを成功させるための秘訣、関連する便利サイト/ツールなどがばっちり理解できると思います。

このブログには書けない生情報もあったりしますので、もし「うちの会社でもKickstarterやってみようと思ってたんだよね」という方がいらっしゃいましたら、お気軽にこちらからお問い合わせください。英語翻訳/カスタマーサポート/海外配送/商品開発/マーケティング/越境EC機能など、TOMでサポートできることがあると思います!

みなさまのお役に立てる内容であったならば幸いです。長文を読んでいただきありがとうございました。

(編集/執筆:安宅、執筆協力:青芝、小穴、坂入、中山、山崎)

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