10分で理解!本当は簡単な海外クラウドファンディングの始め方
こんにちは。Tokyo Otaku Mode(以下、TOM)インターンの櫻井です。
上記イラストは、TOM Special CreatorのJohnHathwayさんを中心とするJH Labが2013年8月に立ち上げた海外クラウドファンディングプロジェクトです。(Kickstarterページはこちら)
本プロジェクトは、クラウドファンディングを通して、秋葉原から世界へ日本のポップカルチャーを発信していくアートマガジン「Akiba Anime Art Magazine」を創刊しました。
TOMでは、EC事業の他に「クリエイター・エコシステム構築」というミッションの下、クリエイターやメーカーとファンの架け橋となるような取り組みを行っています。クラウドファンディングもその一つの新しい形として、私たちも注目しているところです。
以前このブログで公開された記事、「Kickstarter解体新書」はもう読んで頂けましたか?
この解体新書を読めば、海外クラウドファンディングの現況や過去事例、プロジェクトを成功させる秘訣がバッチリ理解できます。まだ読んでいない方は、今回の記事と合わせてぜひ読んでくださいね!
そこで今回の記事では、解体新書の内容を踏まえ、実際に「今すぐ海外クラウドファンディングをローンチするにはどういうプロセスを踏めばよいか」について、6つのステップに分けて詳しく説明していきたいと思います。
<目次>
1. なんで海外でクラウドファンディング?
まず、「プロジェクトを思いついたけど、そもそもなぜ海外でクラウドファンディングしなきゃいけないの?日本じゃだめなの?」と疑問に思われる方がいらっしゃるかもしれません。
前回の記事「Kickstarter解体新書」のChapter 6を参考にして、北米と日本のクラウドファンディング市場規模を比べてみましょう。
北米: 約1兆1000億円
※1ドル117円として算出
(CROWDFUNDING INSIDERの記事より)
日本:197億1200万円
(矢野経済研究所「国内クラウドファンディング市場に関する調査結果 2015」より)
上記データはクラウドファンディングの全カテゴリーを合計した金額となっていますが、北米の市場規模がいかに大きいか一目瞭然ですね!
したがって、プロジェクトの内容にもよりますが、日本でクラウドファンディングを行うより、北米で行う方が大きな支援金を集めることができる可能性が高いと言えます。もちろん北米の方が、クラウドファンディングに挑戦しているプロジェクト数は多いので、埋もれてしまわないよう、様々なPR戦略を考える必要もあります。
2. どのサービスを使えばいいの?
本章では、代表的な2種類の海外クラウドファンディングサービス「Kickstarter」と「Indiegogo」を紹介したいと思います。
海外クラウドファンディングで有名なサービスと言えば、まず挙げられるのが「Kickstarter」です。
Kickstarterのこれまでの実績等、サービスの概要は「Kickstarter Stats」にまとめられています。
Kickstarter Stats
プロジェクト総支援金額(Total dollars pledged to Kickstarter project)は、累計で約$2,250 million(2016年3月現在)と公開されています。そして、累計バッカー(プロジェクトの支援者)の合計数は、約10 million(2016年3月現在)です。
これらの情報をはじめとして、Kickstarter Statsの内容を、以下の資料にまとめました。カテゴリーごとのプロジェクト数や成功率/失敗率など、実際にプロジェクトをローンチする前に知っておくべき情報が多いので、是非ご参考ください。
・Kickstarter Stats(2016年1月時点) - Tokyo Otaku Mode調べ
続いて、2つ目に紹介する海外クラウドファンディングサービスは「Indiegogo」です。
Indiegogoでは、Kickstarter Statsのように詳しく実績がまとめられているページはないものの、概要データは「How it works」に簡潔に記されています。
Indiegogo / How it works
プロジェクト総支援金額(Total raised across all projects, from dance to design)は、累計で$800 million以上(2016年3月現在)と公開されています。そして、累計バッカー(プロジェクトの支援者)の合計数は、9 million以上(2016年3月現在)です。Kickstarterには及ばないものの、大きな市場規模を誇っています。
以上のような各サービスの実績に加えて、KickstarterとIndiegogoは、それぞれのサービスで様々な特徴があり、どちらを選択したらいいか迷ってしまうかもしれません。そこで、以下のような比較表を作成しました。
・Kickstarter vs Indiegogo(2016年1月時点) - Tokyo Otaku Mode調べ
両者の違いでもっとも重要な項目は「投資タイプ」です。
Kickstarter → All or Nothing
Indiegogo → All or Nothing / Keep it all
つまり、Kickstarterでは目標金額に達しないと支援金をもらえないのに対して、Indiegogoでは目標金額に達することができなくても支援金をもらうことができます(支援金を返却することもできます)。
また、「プロジェクト審査」もそれぞれ異なります。
Kickstarter → あり(スタッフレビュー&AI<人工知能>レビュー)
Indiegogo → なし
Kickstarterでは、質の高いプロジェクトが集まるコミュニティを目指しているため、ローンチ前にプロジェクト審査が行われます。(最近は事前審査はAIが行っているようです。)
一方で、Indiegogoは審査がないため参加の敷居が低く、プロジェクトの数では、Kickstarterを上回っています。Kickstarter statsによると、Kickstarterでこれまでローンチされたプロジェクトが約287,000件なのに対して、Indiegogoは約600,000件です。
プロジェクトの企画や内容に合わせて、自分たちの目標実現に最も有効なクラウドファンディングサービスを選択すると良いでしょう。
3. どんな情報を登録すればいいの?
本章では、プロジェクトを登録する際に求められる具体的な情報について、それぞれ説明していきます。
Kickstarter
「Start a project」からプロジェクト情報を登録していきます。Kickstarterでは、大きく分けて5段階の登録ステップ(カテゴリー)があります。
Basics
支援者の目を引く画像、タイトル、カテゴリー、調達期間や目標金額などの展開するプロジェクトに関する基本情報を設定します。Rewards
クラウドファンディングの特徴として、プロジェクトの支援者に対して、お金以外の見返り(リワード)を提供します。ここでは、リワードの内容、説明文、お届け予定日等を登録します。
Story
今回のプロジェクトの背景や実現したい目標を示す動画、支援者に対する潜在的なリスクを説明します。また、プロジェクト開始後はFAQs(よくある質問)も設定することができます。
About
プロフィール写真や経歴など、プロジェクトオーナーに関する基本情報を登録します。また、Googleアナリティクスのトラッキングコードも設定することができます。
Account
連絡先のメールや電話番号、決済情報等を入力します。
Indiegogo
「…a project,」からプロジェクト情報を登録していきます。Indiegogoでは、大きく分けて8段階の登録ステップ(カテゴリー)があります。
Start a campaign
目標金額とタイトルを設定します。Basics
国・地域、プロジェクトのキャッチコピー、キービジュアルや資金の調達期間等を設定します。
Story
今回のプロジェクトの背景や、実現したい目標を示す動画/画像/説明文を設定します。
Perks
Kickstarterで「Rewards」と呼ばれていた「見返り」は、Indiegogoでは「Perks」と呼ばれます。ここでは、その内容、説明文、お届け予定日等を登録します。
Team
プロジェクトオーナーの基本情報や追加したい運営メンバーに関する情報を入力します。
Funding
Indiegogoには、2種類のファンディング方法があります。
Flexible Funding(Keep it all): 目標金額に満たない場合も返金しない
Fixed Funding(All or Nothing): 目標金額に満たない場合は返金する以上のうち、どちらかを選択し、集まったお金の振込方法を入力します。
Extras
Googleアナリティクスのトラッキングコードや、GoogleアドワーズやFB Adsの連携コードを入力します。また、SNSリンクや追加の画像・動画を登録し、短縮リンクを作成することもできます。
InDemand
キャンペーン終了後もコミュニティが保存され、Indiegogoのプラットフォーム上にプロジェクトが残り続けることを了承するかどうかを選択します。
これでついにクラウドファンディングを始めることができます!
ただし、先述の通り、Kickstarterではプロジェクト登録後に審査があります。
また、以上の各登録手順をGoogleスプレッドシートを使用して表にまとめました。以下の資料もぜひご参考ください。
・Kickstarter vs Indiegogo 登録手順(2016年3月時点) - Tokyo Otaku Mode
4. 適切な目標設定は?
本章では、海外クラウドファンディングをスタートする上での「適切な目標設定」について書きます。
まず、参考までに各クラウドファンディングサービスの目標上限金額について調査しました。もちろんそれぞれのプロジェクトの規模に応じて目標金額を設定するべきですが、通貨種に関わらず、設定可能な上限金額は下記の通りです。(2016年3月 TOM調べ)
Indiegogo→ $2,000,000,000 以下
Kickstarter→ $100,000,000 以下
先述の通り、Kickstarterではプロジェクト事前審査がありますが、Indiegogoにはありません。そのため、Indiegogoでは、上限金額に関してもプロジェクトスターターにとってハードルが低いように設定されています。
続いて、先行事例をもとにして「開発費、リワード、配送費」の資金比率内訳を見てみましょう。
こちらは、ある海外クラウドファンディングプロジェクトの資金内訳です。
各コストの比率に注目してみると、プロジェクト開発費が全体資金の約54%というのは、もしかしたら意外と少ないと思われた方もいるかもしれません。
ただ、リワード制作やリワードの海外配送を考慮すると、これぐらいの比率で考えておかないと、資金調達が成功しても最終的に大赤字ということになりかねません。配送費は、配送件数、各リワードのサイズ、デジタルコンテンツの使用等にも大きく左右されますが、およそ「開発費と目標金額の比 = 1:2」に関しては、このデータを参考にして、各プロジェクトで目標金額を設定していただければと思います。
また、目標金額達成後にバッカーが増えることも考えられます。そのため、目標金額のバーはできるだけ低く設定し、高く設定しすぎることは避けましょう。
「先行事例の目標金額をもっとたくさん知りたい!」という方は、以前TOMが独自に調査した、以下「クラウドファンディング事例」を参考にしてください。
・クラウドファンディング事例(2016年1月時点) - Tokyo Otaku Mode調べ
*以下、各カテゴリーごとの代表的な成功事例から抜粋。
【Art】
The Art of Loish: A Look Behind the Scenes
目標金額: £20,000
達成金額: £246,490Ukiyo-e Heroes
目標金額: $10,400
達成金額: $313,161
【Comics】
Publish Tezuka’s “Storm Fairy” & reprint “Unico
目標金額: $14,200
達成金額: $38,142Manga Reborn - 10 great manga titles released in English!
目標金額: $6,000
達成金額: $7,098
【Film & Videos】
-
目標金額: $150,000
達成金額: $625,518
【Games】
-
目標金額: $900,000
達成金額: $3,845,170 -
目標金額: $2,000,000
達成金額: $6,333,295
【Tech & Design】
-
目標金額: $250,000
達成金額: $3,428,896 -
目標金額: $50,000
達成金額: $13,285,226
5. リワードって何を設定すれば良いの?
「目標金額を設定する目安はわかったけど、実際バッカーにとって魅力的なリワードってなに?」という方のために、本章ではリワード設計について書きたいと思います。
そもそも「リワード」とは「プロジェクトを支援する見返りとしてバッカーに与えられる金銭以外のインセンティブ」のことを示します。ちなみに、Kickstarterでは「Rewards」ですが、Indiegogoでは「Perks」と呼ばれています。
この「リワード」をいかに上手く設計するかが、より多くのバッカーにプロジェクトを支援してもらうための鍵となります。具体的なリワードの内容や種類に関しては、以下の「リワード事例集」にまとめました。
・リワード事例集(2016年1月時点) - Tokyo Otaku Mode調べ - Tokyo Otaku Mode
詳細なリワードの設計方法に関しては、「Kickstarter解体新書」のChapter 1にまとめられているため、今回の記事で詳しい言及は避けますが、今回はそのChapter 1から一部重要な箇所を抜粋します。
50ドル以下の低価格なリワードでは、物理的な制作費や輸送費などがかからないクレジットやデジタルコンテンツ、フォーラムの参加権などが主流です。50ドルを超えるとリアルなプロダクトがつき始め、アートブックやTシャツなどのオプションが追加されていきます。300〜500ドルの高価格帯でサインや直筆のイラストが付き始める、といったケースが一般的です。
このように、1〜5ドルの低価格のリワードから、高価格帯のプレミアムリワードまで、幅広く多種多様なリワードを設計することで、それぞれのモチベーションでプロジェクトを支援してくれるバッカーにとって門戸を広く開放することができます。また、ストレッチ・ゴールとして、支援金額に応じてより内容の充実した特典を追加することも、バッカーにとって魅力的なリワードを設計する際に重要となります。
6. 海外配送ってどうやって行うの?
最後に「海外向けの配送方法」について書きたいと思います。
TOMでは「Tokyo Otaku Mode Premium Shop」で、海外向けのEコマース(通称「越境EC」)を行っており、2016年3月現在、日本とアメリカのそれぞれに倉庫を展開しています。アメリカ国内のお客様に対しては、基本的にアメリカの倉庫から商品を発送していますが、その他の国々のお客様には日本の倉庫から発送しています。今回は、TOMの日本の倉庫でもよく使用している2種類の発送方法を紹介したいと思います。
EMS(Express Mail Service)
国際郵便の中で最優先に取り扱われ、1週間程度で各国のお客さまにお届けします(配送日数はTOM調べ)。SAL(Surface Air Lifted)便
日本国内と到着国内では船便として扱い、両国間は航空輸送する、船便より速く、航空便より安いサービスです。
1週間程度で届くEMSに対して、SAL便はEMSに比べると安い料金設定となっています。
例えば、日本からヨーロッパの国々に配送するのに、10.0kgの荷物が、EMSでは16,200円かかるのに対して、SAL便では12,550円です。
(日本郵便株式会社「国際郵便料金表」より)
しかし、SAL便は配達まで3〜4週間程度かかってしまうほか、サイズや重さがEMSよりも制限が厳しく、一部の国にはそもそも配達できないことなど、サービス面ではやや劣る部分もあります。(配送日数はTOM調べ)
日本郵便株式会社のウェブサイトには、先程の「国際郵便料金表」や「料金・配達日数計算ページ」など、実際にリワードを配送する際にかかるコストを事前に計算するのに役立つツールが揃っています。ぜひチェックしてみてください!
最後までお付き合いいただき、ありがとうございます!
以上、海外クラウドファンディングでプロジェクトを始めるにあたっての一連の流れを解説させていただきました。この記事を読んで「教科書は手に入った!今すぐ海外クラウドファンディングにチャレンジしてみよう!」と思って頂けると幸いです。
また、リワード配送については、TOMの倉庫では毎日大量の商品を海外に発送しているため、「ボリュームディスカウント」が効いたり、倉庫の一部スペースを提供したり等、色々とサポートできることがあります。「いちいちリワードの商品の宛名を書いて発送するのは面倒だなぁ」と思われる方は、ぜひこちらからTOMにお問い合わせ下さい。
<資料集>
- クラウドファンディング事例(2016年1月時点) - Tokyo Otaku Mode調べ
- Kickstarter Stats(2016年1月時点) - Tokyo Otaku Mode調べ
- Kickstarter vs Indiegogo(2016年1月時点) - Tokyo Otaku Mode調べ
- Kickstarter vs Indiegogo 登録手順(2016年3月時点) - Tokyo Otaku Mode
- リワード事例集(2016年1月時点) - Tokyo Otaku Mode調べ - Tokyo Otaku Mode
<クラウドファンディング関連記事>
(執筆: 櫻井)